誓いのkiss

敦望3

洗濯物を共にたたんでいた朔は、呼びかけに傍らの少女を見つめた。

「なぁに?」
「……好きって違う意味もあるのかな」
「え?」
瞳を瞬く朔に、望美は恥ずかしそうに言葉を続ける。

「その……敦盛さんと再会した時にね? 好き、って言われたの」
「まあ」
「でも全然変わりないんだよね」

ため息をつく望美に、ようやく朔は彼女の問いかけの意味がわかった。

「敦盛殿の態度が以前と変わらないことに、望美は不安を感じているのね」

「……うん。私は敦盛さんのこと、好きだよ。だけど敦盛さんの好きは、もしかして神子と八葉としてなのかなって」

呼びかけも相変わらず『神子』のままであったことから、望美はすっかり自信をなくしていた。

「敦盛殿に確かめてみたらどうかしら」

「え?」

「ここで話していても、それは推測でしかないでしょう? だったら、直接聞いてみた方がいいと思うの」

「で、でも……」

もしも仲間としてだと答えられたら?
そんな不安が望美の顔に浮かびあがる。

「やってみなくてはわからない……そう私に教えてくれたのはあなたよ? それに――きっと大丈夫よ」
「そう、かな?」
「ええ」
朔の後押しに、望美は頷くとすくっと立ちあがった。

「私、聞いてくるね!」
「本当に思い立ったらすぐ行動なんだから……」

飛び出していった望美に、朔がくすりと微笑む。
それでも先程とは違い、晴れ晴れとした表情で駆けていった少女に安堵していた。
敦盛の告げた『好き』の言葉の意。
それはきっと、望美と同じものだから。

 * *

「望美?」
くすりと微笑んだ望美を、敦盛が不思議そうに覗きこむ。

「昔のことを思い出してたんです」
「昔のこと?」
「はい。敦盛さんが告白してくれた時のことです」
摘んだ女郎花を手に微笑む望美に、いつかの姿が重なり、敦盛は照れくさそうに俯いた。

「そ、そうか」

「私、実はずっと不安だったんです。再会した後も、敦盛さんはずっと私のことを神子と呼んでいたでしょう?
再会した時に好きだって、そう言ってくれたのは八葉として神子の私を好きだって、そういう意味だったのかと思ったんです」

「違う。私は」

「はい。今はちゃんとわかってます」

にこりと微笑む望美に、ほっと安堵する。

「でも、時々はやっぱりちゃんと伝えて欲しいです」
「ああ。以前、同じことをヒノエにも言われた」

自分が怨霊であることに悩み、望美に触れることを躊躇っていた敦盛に発破をかけた、燃えるような紅の髪を持つ幼馴染。
あの時ヒノエに打ち明けた想いを――どれほど罪深くても望美の傍にいたいのだと、そう願う心をありのまま言の葉にのせて、愛する目の前の少女に伝える。

「望美。私はずっとあなたのことが好きだった」
「過去系ですか?」
可愛らしく口を尖らせた突っ込みに、艶やかな笑みを浮かべると、答えのかわりに口づけを落とす。

「……わかってもらえただろうか」
「……はい…」
頬を染める望美にくすりと微笑み、再び口づける。
傍にいたいと、そう望むことは罪なのだとしても、彼女が許してくれたから。
だから、私は私の全てで愛し守る。
そう、柔らかな唇に誓いを捧げた。
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