kiss

敦望14

「敦盛さん、キスしましょう」
望美の要望に、敦盛は戸惑うように彼女を見る。

「み、神子?」
「キスってわかりますよね?」
「そ、それはわかるが……」
図書館通いが日課の敦盛は、歴史書のみならず幅広い知識を得ようと、様々なジャンルのものも読みふけっていた。

「しかし、私が触れるとあなたを穢してしまうかも……」
「大丈夫です!」
言い切る望美に、敦盛が圧倒される。

「前に熊野で敦盛さんが発作を起こした時、私の気で治まったでしょ? きっと、敦盛さんの中の悲しみの根源を和らげることができると思うんです」
確かに以前、熊野で発作を起こし怨霊化しかけた時に、望美の清らかな気を分け与えることで治まったのだが。

「しかし……」
「待ったはなしです! 私は敦盛さんとキスがしたいんです!」

ずばっと言われてこれ以上反論もできず、敦盛は困ったように望美を見つめた。
敦盛が自分が怨霊であることを気にして二の足を踏むことが分かっていた望美は、二人の関係をさらにUPさせるには自分から動かなければならないことを悟っていた。
だから、こうして恥ずかしいながらも要求しているのである。

「じゃあ、いきますね」
ちょっと背伸びをすると、敦盛の首に手を絡ませ唇を寄せる―――が。

「……った~!」
「……っ」
キスをしたことがない望美は、まっすぐ面と向かいすぎて鼻をぶつけてしまったのである。
自分から求めた上にこの失敗で、望美は顔を真っ赤に染めると泣き出してしまう。

「み、神子!?」
「……もう、なんだかすごく情けなくなってきた」

いざ意気込んでしてみれば、この体たらく。
気分がどんどん沈んでいく。
そんな望美に、敦盛はしゃがみこんで視線を合わせると、そっと彼女の顎を持ち上げた。
そうして唇を望美のそれに重ねる。

「敦盛さん?」

「……あなたに恥をかかせてしまったな。すまない」

「い、いいんです! 私が初めてで、下手だったから……っ」

慌てて言い訳して、自分が初心者マーク丸出しのことに気付き、耳まで赤くなる。

「嬉しかった。神子が、その、私とキス……したいと思ってくれて」
照れくさそうに少し視線をずらして告げる敦盛に、望美は嬉しくなって彼の首に腕を絡める。

「今度は敦盛さんが教えて下さいね」
「……ああ、わかった」
にっこり笑う望美に、敦盛はもう一度そっと唇を重ねた。
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