「ねえ、将臣くん」
「あ?」
連れだって邸の外へ出てきた望美は立ち止まり、辺りに人の気配がないことを確認すると、まっすぐに将臣を見つめた。
「私達の世界の歴史、覚えてる?」
「なんだよ。いきなり勉強か?」
茶化しかけるが、望美の真剣な瞳に笑みを潜めた。
「……平家の末路か?」
「うん。私達の世界の歴史で平家は――」
「源氏に敗れ、滅びるな……」
「私は平家を滅亡させたくないの」
脳裏に蘇るあの日の光景。
その時の痛みに耐えるように一度目をつむると、将臣に向き直った。
「このままだと私達の歴史通りに進んでしまう。だから将臣くんの力を貸して」
「どうしてそう思う?」
「?」
「俺達は確かに平家……清盛に世話になってる。だが、ここにきてまだ半月程度。そのわりにお前は邸のこともよくわかってたよな」
以前の記憶を有したまま、時空を遡った望美とは違い、将臣はこの世界に来たばかりなのだから当然の疑問だった。
「未来を見てきた……って言ったら信じる?」
「はあ? 未来だって?」
想像通りの答えに望美は頷いた。
「私は見てきたの。この先の未来を。――平家の末路を」
追い詰められた一門の人々。
真っ赤に燃えた空。
「だから、どうしても運命を変えたい。そのためには将臣くんの協力が必要なの」
「本当……みたいだな」
寂しげな笑みを浮かべる望美に口をつぐむと、将臣はくしゃりと頭を撫でた。
「わかったよ。だから、そんな顔すんな」
「将臣くん……!」
「で? 具体的にどうすればいいのか、考えはあるのか?」
将臣の問いに、ふるふると首を振る。
「源氏と争わないようにできればいいんだけど……」
「無理だな。源氏と平家の争いは今に始まったことじゃない。たとえ平家が都から離れても、源氏がそのまま放っておくはずはないからな」
「清盛も……都に帰ることをあきらめないものね」
以前、清盛と言い争った時のことを思い出し、望美が顔を曇らす。
ただ平家存続を願うなら、源氏に負けず平家が勝つ未来を紡げばいい。
けれどもそれでは、白龍に力を取り戻させることはできない。
ふと、あの話を思い出す。
「和議……」
「ん?」
「和議ならどう? 平家と源氏が和議を結んだら、平家はもう脅かされることはないよね」
「まあ、そうだが……難しいぞ。なんせ犬猿の仲だからな」
平家と源氏の和議。
それが本当になせれば?
「将臣くん、考えよう。どうすれば平家と源氏が和議を結べるか」
「――わかった」
望美の真剣なまなざしに、ガシガシと頭を掻くとにやりと微笑む。
平家存続の未来へ一歩、歩き出した瞬間だった。
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