今、この時を

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茶吉尼天との戦いに勝って、鎌倉の五行も正しく流れ始めた。
今日は有川家に集まって祝勝会。

「いや~このお酒、美味しいね~」

「それはウィスキーっていうんですよ」

「景時さんって珈琲といい、異国のものが好みなのかな?」

「そういえば紅茶も気に入ったと言ってたわね」

「たんに目新しいものが面白いだけじゃねえか?」

確かに珈琲も紅茶もウィスキーも京にはないものだ。

「でも私もこちらの世界に来てからお料理が楽しいわ」

「どうして?」

「私達の世界では手に入らない調味料がたくさんあるでしょう? こういうものがあるとお料理の味つけをするのが楽しくなるから」

「そういえば譲くんも言ってたな。異世界に行って初めて調味料のありがたみがわかったって」

「ええ。今まで当たり前に使っていたものがないのは困りました」

「それでもこっちの料理を作ってた譲くんってすごいよね」
オムライスやドリアなど、変わらず作っていたことを思い出し、望美が感心する。

「私も料理してみようかな」
「げっ」
「げってなによ!」
「いや、腹壊すのがオチかな、と」
「失礼しちゃう!」
将臣の言葉に頬を膨らませた望美に、まあまあと譲と朔が宥める。

「明日一緒に作ってみましょうか」
「ほんと? うん、やる!」
「まじかよ……」
「そういうこと言うと、美味しく出来ても将臣くんには食べさせてあげないんだからね!」

べえっと舌を出した望美に、ヒノエがすかさず肩を抱く。

「神子姫自らなんて、明日が楽しみで今夜は寝れそうもないね」

「望美さんの手料理が食べれるなんて嬉しいですよ」

「お前らはこいつのひどい料理、食ったことがないからそんなこと言えんだよ」

朱雀コンビの絶妙な舌技に、将臣がやれやれと肩をすくめる。

盛り上がった祝勝会が日をまたいだ頃、望美はふと時計を見た。
と、立ち上がって皆を促す。

「ね、初日の出見に行こう!」
「はあ? 今からか?」
「うん!」

時間は4時。 確かに近くの海岸からならば見ることも可能だろうが。
寒さに渋る将臣に、望美がほいほいとコートやマフラーを投げつける。

「じじむさいこと言ってないで行くよ!
ほら!」
言い出したら聞かないことを重々知っている八葉達は、苦笑しながら有川家を出た。
外はまだ闇に包まれ、しんと静まり返っていた。
そうして辿りついた海岸で、今年最初の日の出を待つ。

「寒くはないかい?」
「大丈夫だよ」
「君は少し寒いぐらいの方がいいみたいですね」

隙あらば肩を抱こうとする甥を、弁慶が呆れながらその手をはたく。

「……静かだね」
「ええ」
つい先程までの喧騒が嘘のように静まり返った海に、望美はそっと朔の腕を掴む。

「ねえ、望美」
「なに?」
「どうして初日の出を見ようと思ったの?」
朔の言葉に口をつぐむ。

「……思い出を作りたかったの」
「思い出?」
「うん。もう少しで皆帰っちゃうでしょ? だから、少しでも皆との思い出が欲しくて……」

九郎・ヒノエ・弁慶・景時・敦盛・リズヴァーン・朔・白龍。
彼らは望美たちの世界を守るため、時空を越えてきてくれた。
だけど、茶吉尼天を倒し、彼らが元の世界へ戻る日も近づいていた。

「ごめん。こんなんじゃダメだよね」

「……私、あなたの対で本当に良かったわ。どこへ行っても、きっと、忘れない……」

「朔……」

「どれほど時空を隔てても、私の神子はあなただけだよ」

「白龍もこういってるし、案外すぐにまた会えるかもよ?」

「おいおい」

「望美ちゃんを忘れたりなんかしないよ。いつでも遊びに来てよね」

皆の優しい励ましに、望美はごしごしと目を拭うとにこりと微笑む。
話している間に闇に包まれていた空が少しずつ明るくなり、そして――。

「わ……ぁ……っ」
思わずもれた呟きに、全員が闇を照らす光を見る。
明日を照らし出す清浄なる光――それはまるで望美のようだった。

「綺麗だね!」
「ほんとうね」
「初日の出を見たのは初めてですね」
「私もだ」
口々に感想を述べる仲間達に、望美が笑顔で向き直る。

「明けましておめでとう! みんな、大好きだよ!」
新しい希望の光を背に受けて。
永久に繋がる絆を信じて。
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