「……誕生日?」
生徒指導室を訪れたほたるに何の用かと尋ねると、返ってきた答えに目を丸くする、が。
「――それがなんだ?」
「ですから、今日は師匠の家にお邪魔して、久しぶりにご飯を作ります」
「お前の今の家は明智光秀のところだろう」
「光秀殿の分は昨夜のうちに用意して、今朝きちんと冷蔵庫にしまってきました」
「……そういうことではない」
問答にこめかみを押さえると、窘めるようにほたるを見る。
「お前はもう一人前の忍びだろう? 俺の元に来る必要などない」
「一人前になったら師匠の下を訪れてはいけないのですか?」
「必要ないだろう」
「あります」
強く言い切る様は、幼い頃百地にねだる時の顔と同じで、この甘ったれがと苦虫を噛み潰す。
「この歳で誕生日など祝う必要はないだろう」
「誕生日はいつでも祝うものだと思います」
「それはお前だけだ」
「でしたらそれでも構いません。私は師匠の誕生日をお祝いしたいのです」
まったく引く気配のないほたるに、結局折れるのは百地。
生徒指導室で私的な会話を延々続けることへの抵抗もあり、仕方なしにほたるの要求を受け入れる。
「……冷蔵庫にはろくなものが入ってないぞ」
「必要なものは買ってからお邪魔します。合鍵を使用して構いませんか?」
「……ああ」
掃除の苦手な百地に業を煮やしたほたるに散々つつかれ、渋々渡した合鍵は時々掃除に訪れる時に使われていた。
「ではこれから買い出しに行きますね。師匠、お帰りは?」
「……今日は定刻で帰る」
「お待ちしてます」
にこりと嬉しそうに微笑むほたるとの会話はまるで新婚夫婦の遣り取りのようでむずがゆい。
「師匠?」
「なんでもない。あつものは……」
「もちろん多めに作ります。師匠、お好きですよね?」
「……ああ」
百地の好物を知りえてるほたるの返事に見送ると、仕事を終えるべく机に向かった。
2018/04/04