「ただいまー」
「おかえりなさい。お疲れ様、疲れてるでしょう? ご飯も出来ているけど、先にお風呂にする?」
仕事から帰ってきた央を労い声をかけると、目をぱちくりしながら固まった彼に小首を傾げる。
「央?」
「あー……今、すごい幸せだなーって胸がいっぱいになっちゃって」
目元を赤らめ、照れながら微笑む央に、そういえば新婚らしい遣り取りだったと気づき、遅れて頬を赤らめた。
結婚式を挙げて一緒に暮らすようになって、央をこうして出迎えるたびに結婚したのだと感じてとても幸せな気持ちを感じていた。
そんな思いを同じように央も感じてくれていることがわかり、さらに嬉しくなる。
「私も……幸せだわ」
央が海外で修行していた頃は会えない日々が続き、寂しい思いをしていた。
それが央にとって必要なことだとわかっていても、電話越しにしか声が聞けないこと、会いたい時に会えないこと。
寂しさが少しずつ降り積もって、とても悲しくなる日もあったから。
「あーもうなんでそんなに可愛いかな。可愛すぎます。本当にもう抱きしめずにはいられないぐらい」
「な、央……ちょっと……」
「ごめん。でも、もう少しだけこうさせて。すっごく幸せで、君が好きだって気持ちが溢れて止まらないから」
ストレートな央の言葉に気恥ずかしさが募るが、抱きしめられて嬉しくないわけがない。
だから、後ろから抱きしめる腕に手を添えると、好きよと小さく呟く。
「え?」
「……え?」
(声に出てた……?)
心の中で呟いたつもりが声に出してしまったと気づき頬を赤らめると、ぽふんと央の顔が後頭部に寄せられて。
「だめ……もう可愛すぎて我慢できません」
普段より少し低い声は艶めいていて、央の声がそんなふうに変わるのはどんな時かを知っているから、撫子の胸が大きく高鳴る。
「な、央……ご飯! 今日は結構上手に出来たのよ?」
「うん。後で美味しくいただきます。でも今は君を食べさせて?」
「…………っ」
そんなふうに甘く囁かれたら、ご飯を先になんて言えるはずもない。
緩んだ腕に向き合うと、降り落ちてきた唇を受け止めて。
火を止めておいてよかったと、視界の隅でキッチンを眺めながら、愛しい人の腕に抱かれた。