「Trick or treat?」
「じゃあコレで」と頬にキスされ、撫子がじとりと円を見る。
「……ちなみにこれはどっちなのかしら?」
「あなたはどっちだと思います?」
「問いに問いで返さないで」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべる円にムッと眉を顰めると、やはり言うんじゃなかったと後悔する。
鷹斗がハロウィンをやりたいと言っていると聞いてため息をついたのもつかの間、突然円に決め台詞を言えと要求され、幾度かの攻防の末に仕方なしに告げた撫子に対する円の返しに、彼女が眉を潜めるのは当然だった。
「Trickは相手が持っていなかった時にこちらがやるものよね? でもあれがtreatなんて馬鹿みたいなこと平然と言うわけないわよね?」
「…………よくしゃべる口ですね」
スーッと温度が下がるような錯覚を覚えた瞬間、頤を持ち上げられ、目の前が銀色に染められる。
「頬じゃ不満だったんですね。お子様だからといらぬ配慮ですか。あなたの要望です。叶えますよ」
「な……っ、誰が何を要望したのよ!?」
「今言った自分の言葉も覚えられないなんてどれだけ鳥頭なんですか、あなた」
「覚えてるわよ。覚えてるからそんな要望してないって言ってるのよ!」
どうしてこんな口論に発展しているのだろうと頭を抱え込みたい衝動に襲われると、はいはいすみませんと円が身を翻す。
「じゃあ、キングには撫子さんはやりたくないと言っていたと言っておきますね」
「誰もそんなこと言ってないじゃない」
「なんです、あなたキングとハロウィンをやりたいんですか?」
「やりたいわけじゃないわよ。でも勝手に決めつけられるのは納得がいかないでしょう?」
「面倒くさい人ですね、あなた」
「その言葉そのまま円に返すわよ」
確かに元の世界の円も、相手を言い負かそうとするとスラスラ滑るように言葉を紡いでいたが、目の前の円ほどではなかった。
こんなふうに成長させないようにしなくちゃと、妙な義務感を抱いていると視線を感じて振り返り、そこにまだ円がいることに気づく。
「円? 帰るんじゃなかったの?」
撫子を構うのは仕事だからだと、面倒そうなそぶりを見せてばかりの彼だから、ドアへ向かった姿にてっきりそのまま帰るのだと思ったのだが違うのだろうか。
「で、どうなんです? やりたいんですか、やりたくないんですか。はっきりしてください」
なんでこんな詰問されなくてはならないのだろうと不満に思うも、呑気にハロウィンを楽しむ心境になれるはずもなく、やりたくないわと返す。
「わかりました。キングにはそう伝えておきます。ハロウィン当日はくれぐれもキングを部屋に入れないようにしてください。いいですね」
怒涛のように言い連ねると出ていった円にドッと疲れが出て、よろめくようにベッドに腰を下ろした。
そしておもむろに唇に手を伸ばすと、泣きそうに顔を歪める。
「……円の、馬鹿」
ムードも減ったくれもないファーストキスに、撫子は悔しさと悲しみを感じてベッドにうつ伏せた。
2018ハロウィン企画