2人の約束

鷹撫2

「撫子……」
頬に触れる手から感じる震えと同じぐらい、弱々しい声。
確かめるように、祈るように触れる、冷えた指先に大丈夫よと伝えたくて、沈んでいた意識を浮き上がらせる。
目を開けると薄暗い部屋が映り、ぼんやりと視線を巡らせて、見つけた姿に口を開いた。

「鷹……斗……」
「目が覚めた? ずいぶん汗をかいたから喉が渇いてるよね。少し身体を起こすよ」
背中に回された腕に身を起こされて、枕をクッション代わりに背もたれに挟むと、水をそそいだコップを手渡されて喉を潤す。
鷹斗が言うように喉が渇いていたのだろう、あっという間に飲みきったコップに再び水が注がれて、それを今度はゆっくり味わうように飲む。

「ありがとう」

お礼をのべて改めて部屋を見ると、外の暗さに今が夜であることを知る。
体調不良に気がつかれてベッドに寝かされたのが昼過ぎだったので、それなりの時間を眠ってしまったのだろう。
おかげでまだ熱さは残るものの、眠る前のような怠さや寒さはなかった。

「ずっと傍にいてくれたの?」
「もちろん。手を繋いでるって約束したからね」
「そんなの……眠ったら離して良かったのよ。ごめんなさい、夕御飯も食べられなかったでしょ?」
「大丈夫、お昼御飯におかゆを多く作ったから後で食べるよ。あ、撫子もお腹空いたかな。それなら新しく作り直して……」
「私もおかゆの残りでいいわ」

つい早口で返すとくすりと笑われて、信用ないなぁとこぼされる。
それに申し訳ない気持ちがわくが、今までの数々の酷い料理を思い出すと、やはり昼のおかゆの出来は奇跡のように感じてしまって、つい口をつぐんでしまった。

「あの……お昼のおかゆが美味しかったから、また食べたいと思って」
「うん、嬉しいよ。温めてくるから少し待っててね」

鷹斗が一人で料理することの不安を分かっているのだろう、苦笑しながらも責めることなく部屋を出ていった彼に、ふぅと息を吐き出すと目覚める直前のことを思い出した。
震えていた手のひらに、弱々しい声。 彼が恐れているものが何かを知っているから、大丈夫だと伝えなければいけない。
この世界を壊してしまうほどに愛してくれている彼だから、もう二度とそんな思いをさせたくないから。
程なく戻ってきた鷹斗と二人でおかゆの残りと、彼が手伝ったお礼にもらったとっておきのイチゴを食べて。
汗でしめった身体を拭ってもらい、新しい寝間着に着替えると、不安を吐露する鷹斗と共に横になる。
そうして彼の想いを聞いて、溢れてくる愛しさにきゅっと袖を掴んだ。

「私もよ。ずっと誰よりも傍で鷹斗を見ていたい」
「撫子」
「ずっと傍にいるわ」

この人をもう二度と喪失の恐怖に一人怯えさせたくない。
苦しませたくない。狂わせたくない。
少しだけ顔を上げて唇を重ねると、見開かれた瞳にゆるりと微笑む。

「二人で生きましょう」
呟きと共に抱き寄せられて、重ねられた唇は早急で、でも優しい。
鷹斗を幸せにする。
想いを新たにかけがえないぬくもりを抱きしめた。
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