20161125

政府1

2016年11月25日16時23分――夕焼けに赤く空が染められていた世界に、変化は突然もたらされた。
眩い光と衝撃。
けれども身体が吹き飛ばされることも、目が焼かれることもなく、ただ周りにある【もの】が崩れ去った。

まるで爆弾でも落とされたかのように壊れた建物に、草一つない乾いた大地。
目を疑いたくなるような一変した景色に、人々はただ茫然とした。
何が起きたのか、理解している者はほんの一握りしかいなかった。
そしてそれを知る人々はこの事態を引き起こした当事者であり、その事実をありのままに公表することは当然なく、この出来事は神々の黄昏――黄昏時に起こった神の手による世界改変と、そう呼ばれるようになった。




世界が驚き、悲しみ、惑う中で、ただ一人感謝を抱く者がいた。
様変わりした世界は、彼が行っていた研究のせい。
けれどもこの爆発は、彼に悲しみと喜びをもたらした。
彼が何より望む存在を目覚めさせる最後のピース。それがこの時に、揃ったのだ。

5年前、少年のかけがえのない存在が突然の事故で失われたあの日。
あの瞬間から、この世界の運命の歯車は狂いだした。
その歪みが招いたのが、世界を一変させた量子エネルギーの爆発。
この出来事は人々から豊かな生活と自由を奪い去った。
ただ愛する人と共に生きることを望んだ哀れな王によって。

「君のいない世界なんていらない――」

すべては愛する存在を失った嘆きと、理不尽な世界への怒り。
神という存在が彼女と自分を引き裂いたのなら、今度は自分が引き裂く番だ――




世界改変が起こった時、レインは何の感慨も抱かなかった。
彼にとってこの世界はどうでもいい存在だったからだ。
けれども、この変化は彼にとって好ましいものであった。彼の願いにまた一歩近づいたから。

「鷹斗くんはやっぱりすごいですねー」
「……すごいじゃねーよ! この馬鹿!」
「おやおや、ご機嫌斜めですね―カエルくん?」
「この惨状を前に笑ってる奴なんか、お前とあいつぐらいだろーが」
「まあ、そうでしょうねー」

壊れた世界を目の前にして抱く歪な感情は、すでに彼自身が壊れているからなのだろう。
大切な存在を理不尽に失った嘆きと怒りが、この運命を引き寄せたのだ。

「でも、まだ終わりじゃないですよ?」

そう、これは始まり。
彼の願いはまだ叶えられてはいないのだから。




神々の黄昏が起きた時、円は真っ先に家族のことを心配した。
彼のかけがえのないもの……それは家族。
たとえその権利を自ら失わせたとしても、それでも彼にとって彼らと家族であることは彼のすべてだった。
けれども、円が家族と会うことは叶わなかった。
混乱の中で突然連れられ、突きつけられた5年前の罪。

「君は償わなければいけないよね?」

微笑み、促す存在に抗うことなどできるはずもなく、円は鳥籠に囚われた。
罪という鎖を巻かれ、償いという術を与えられて。




それぞれがそれぞれの願いと思いを胸に進むその地下で、撫子は深い眠りについていた。
まっていて。
そう書き置いたのに、身体は少しも動かなくて、瞼すら震えることもなく、浮かぶ思いもすぐに霞んでいってしまう。

約束していたのに、待ち合わせ場所に行けず待ちぼうけさせてしまった鷹斗。
事故に合った自分を気遣い、真っ先に駆けつけてくれた理一郎。
待ち合わせていた円はどうしただろう?
もしかして撫子が事故に合った姿を見て動揺させてしまったのではないか?
申し訳なく思う気持ちと、それを伝えに行くことのできないもどかしさ。

(…ごめんなさい……)

優しい彼女の抱く思いは、けれども彼らに伝わることはなく。
歪んだ歯車はさらなる歪みを招いていく。
【九楼撫子】の元で――。
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