青い夏

ソウヒヨ8

「はい、どうぞ」

そう言って差し出されたのは、少し懐かしいアイスキャンディ。

「凝部くん、レトロゲーム好きだから、こういうのも好きかなって」
「ん~渋いチョイスありがと☆ いただきまーす」

ヒヨリの単純な思考に苦笑するも、手土産を無にするつもりはないので、素直に受け取ると包装を破いてアイスを取り出す。
まだまだ残暑の残る日中で、買ったアイスは溶けかかっており、こぼれ落ちないように舐めながら噛ると口の中に冷たさが広がる。
引きこもりがちな凝部は常に快適に保たれた空調のきいた部屋にいるので、暑さ寒さに左右されず季節感のある食べ物というのも気にしないのだが、家の手伝いをよくしているというヒヨリにはこの時期の必須アイテムなのだろう。

(それでも今時バニラって)

昨今、移り変わりの激しい流行に最近ではインスタ映えを意識した商品が多い中で、ヒヨリがチョイスしたのがバニラアイスキャンディというのが妙に「らしく」て、ちらりと横目で彼女を見た瞬間、どくりと鼓動が大きな音をたてて跳ね上がる。
凝部のアイスと同じく溶けかかっていたのだろう、ペロペロと必死に舐めているヒヨリ。

(うわー……こんなの漫画かなんかのフィクションだと思ってたんだけど反則でしょ……)

何故アイスキャンディをただ舐めているだけのことがこんなにも卑猥に感じるのか。
服も着ているし、そんなムードなど今まで微塵もなかったし、何よりそんなことをしたこともないのに。
今、自身が感じているのが性的な衝動だと理解して頭を抱えた。

(そりゃあ今までも親のいない恋人の部屋で二人っきりなんて美味しいシチュエーションだったんだけどね)

凝部だって健全な青少年、可愛い彼女と一緒にいればそうした気持ちにならないわけはなかったが、あまりにもヒヨリが無防備過ぎて逆に罪悪感を覚え、キスさえ数える程しかしていなかった。

(これ、絶対据え膳ってやつだよね。悪いのはヒヨリちゃんじゃない?)

アイスを食べてるだけで何が悪いと言われそうだが、シチュエーションがとてつもなく悪いのだ。
手を出してもいいのか悩んでいると、視線を感じたのか見上げたヒヨリがペロリと唇を舐めてこちらを見る。
その瞬間、プツリと理性の糸が切れる音がして、残っていたアイスを一気に食べると彼女の腰に腕を回して距離を詰めた。

「凝部くん?」

きょとんと見つめるヒヨリに口づけると一瞬にしてその頬が赤く染まって、「ちょっと、待って」と焦り胸を押す。

「アイス! 溶けちゃうから!」
「じゃあ早く食べ終わって。はい、3、2、1……」
「無理! そんな早く無理だから!」

それでも急いでアイスを食べる姿は律儀で、濡れた唇に彼女が最後の一口を噛った瞬間、タイムリミットとその口を追った。

20191018
Index Menu ←Back next→