「さっむ!」
「ほら、もっとこっちにおいでよ」
ブランケットを引き寄せながらグッと身を寄せるヒヨリに、ええ~と内心で呟きながら素直に彼女を抱き寄せる。
季節は秋から冬に変わり始めて、空調設備も送風から暖房へと切り替わった頃、突然すべての電気が消えた。
いつものように凝部の部屋へ遊びに来ていたヒヨリに、バングルの緊急速報を読んだ凝部は仕方なしにブランケットを引っ張り出して彼女に渡した。
「羽織ってて。寒いでしょ?」
「ありがとう。でも、凝部くんも寒いよね?」
「ん~適当に上着を着るから大丈夫」
そう言ってクローゼットから取り出し羽織ってみるもやはり寒く、震えた肩にヒヨリが近寄り彼を包む。
「凝部くんも入ろうよ?」
「キミのお誘いなら喜んで☆……と言いたいとこだけど、さすがにまずいでしょ」
「でも、寒いでしょ?」
確かに空調システムが使えなくなって下がっていく室温に寒くないわけなかったが、しかし一緒にベッドにもぐりこむわけにもいかず、でもブランケットも1枚しかないとなれば仕方なく、二人で分け合うことにした。
「大規模停電とかなくない?」
「珍しいよね。すぐに直るといいんだけど」
「……あったかい。キミ、体温高い?」
「凝部くんが冷えちゃっただけだよ。それに身を寄せ合うとあたたかいじゃない?」
普段から弟妹の面倒を見ているヒヨリはこうして身を寄せ合うことにも慣れているようで、同じように躊躇うことのない様に凝部の方がドキドキする。
(ヒヨリちゃんって本当に隙あり過ぎだよね~無自覚だろうけど)
何度となく感じてはきたが、人のいいヒヨリは疑うということがほとんどないようで、下心なくこうしたことをやってのけるので、のらりくらりとかわすことに困るのはいつも凝部の方だった。
「凝部くん、どうして離れるの?」
「いや、やっぱりね~ほら」
「もう!」
離れても追いかけて自分の分までブランケットをかけようとするヒヨリに、ああもう~と呻くとグイッとブランケットごと抱き寄せて包みこむ。
「これなら二人ともあったかいでしょ」
「う、うん」
「まさか文句あり?」
「ないけど……ちょっと恥ずかしい」
「……今更それいう?」
ワンテンポずれた反応に苦笑するも、こうする以外に手がないとなれば諦めてもらうしかなく、ポンポンと宥めるように背を撫でる。
「……なんだか懐かしいな」
「ん?」
「よく弟たちにやってあげてたの」
「優しいお姉ちゃんだね」
「そうかな」
「うん。そこは素直に受け取って」
「ふふ、ありがと」
五人兄妹の最年長とあって、いつも世話する役目のヒヨリの無邪気に甘える様は可愛くてぎゅっと抱きしめる。
「あったかいね」
「そうだね」
ぬくもりを分け合うこともヒヨリから教えてもらったと、いつになく優しい気持ちが胸を占めて愛しいと、強く思った。
10周年企画