きっとめぐり逢うために

郁月9

「後は学校帰りにケーキを買ってくればいいよね」
片付けを終え、もう一度冷蔵庫を確認した月子が微笑む。

明日は郁の誕生日。
だけど平日である明日は二人共学校があるため、お祝い出来るのは帰ってから。
だから、郁には先に寝てもらって、こっそり誕生日のお祝い準備をしていた。
料理はあまり得意とはいえないから、早目にレシピを考えて勉強、今夜のうちに仕込んでおいた。 郁の好きなお酒も買っておいた。

プレゼントも何度も何度もお店に足を運んでようやく決めた。
あとは……明日を待つのみ。
時計を見ると十二時近く、月子は慌ててエプロンを外し寝室へ。

「抜き足、差し足、忍び足……っと」
起こさないようにそっとベッドに近寄り、郁の隣りへもぐりこむ――と、突然ぎゅっと抱き寄せられた。

「郁? ……起こしちゃった?」
「はずれ。ずっと起きてたんだよ」
「え?」
「それにしても抜き足、差し足……って」

あははと楽しげに笑う郁に、顔が真っ赤になる。
いつぞやも心の声をそのまま口に出してしまい、こうして笑われていた。

「で、終わったの?」
「な、なにが?」
「支度」
すっかりばれていることに、月子は力なく頷いた。

「ありがとう」
顔を上げるとちゅっとキス。

「君が僕のためにしてくれることが……嬉しい」
「郁」

少しはにかむような笑顔が嬉しくて、幸せで。
ベッドの上の時計を確認して、言祝ぎを贈る。

「郁、お誕生日おめでとう。一番最初にお祝いできるのが嬉しい。傍でお祝いできるのが嬉しい。……大好き」
言い終わった途端、再び郁に抱き寄せられた。

「君を愛してる」

郁が一番嫌いな言葉。
だけど、今溢れるこの想いはこの言葉にしか出来なくて。
伝えきれない想いは行動に、何度もキスを贈る。

「郁……」
「だから……君はそうやって無意識に僕を誘う」

顔を赤らめ、とろんとした瞳を向ける月子に鼓動が高鳴る。
今日は遅くまで頑張ってくれていたし、明日も月子は大学院、郁は学校があるから大人しく寝るつもりだったのに、あっけなく崩れた理性に苦笑して、先程とは違う深いキスをする。

「誕生日プレゼントに君がほしいって言ったらどうする?」

問いかけに真っ赤な顔で困る月子。 それでも……頷いたのは、今日が郁の誕生日だから。

「ふふ、ありがとう」
微笑みキスをして。
覗き見た時計から甘い一時を計算した。
Index Menu ←Back Next→