「後は学校帰りにケーキを買ってくればいいよね」
片付けを終え、もう一度冷蔵庫を確認した月子が微笑む。
明日は郁の誕生日。
だけど平日である明日は二人共学校があるため、お祝い出来るのは帰ってから。
だから、郁には先に寝てもらって、こっそり誕生日のお祝い準備をしていた。
料理はあまり得意とはいえないから、早目にレシピを考えて勉強、今夜のうちに仕込んでおいた。
郁の好きなお酒も買っておいた。
プレゼントも何度も何度もお店に足を運んでようやく決めた。
あとは……明日を待つのみ。
時計を見ると十二時近く、月子は慌ててエプロンを外し寝室へ。
「抜き足、差し足、忍び足……っと」
起こさないようにそっとベッドに近寄り、郁の隣りへもぐりこむ――と、突然ぎゅっと抱き寄せられた。
「郁? ……起こしちゃった?」
「はずれ。ずっと起きてたんだよ」
「え?」
「それにしても抜き足、差し足……って」
あははと楽しげに笑う郁に、顔が真っ赤になる。
いつぞやも心の声をそのまま口に出してしまい、こうして笑われていた。
「で、終わったの?」
「な、なにが?」
「支度」
すっかりばれていることに、月子は力なく頷いた。
「ありがとう」
顔を上げるとちゅっとキス。
「君が僕のためにしてくれることが……嬉しい」
「郁」
少しはにかむような笑顔が嬉しくて、幸せで。
ベッドの上の時計を確認して、言祝ぎを贈る。
「郁、お誕生日おめでとう。一番最初にお祝いできるのが嬉しい。傍でお祝いできるのが嬉しい。……大好き」
言い終わった途端、再び郁に抱き寄せられた。
「君を愛してる」
郁が一番嫌いな言葉。
だけど、今溢れるこの想いはこの言葉にしか出来なくて。
伝えきれない想いは行動に、何度もキスを贈る。
「郁……」
「だから……君はそうやって無意識に僕を誘う」
顔を赤らめ、とろんとした瞳を向ける月子に鼓動が高鳴る。
今日は遅くまで頑張ってくれていたし、明日も月子は大学院、郁は学校があるから大人しく寝るつもりだったのに、あっけなく崩れた理性に苦笑して、先程とは違う深いキスをする。
「誕生日プレゼントに君がほしいって言ったらどうする?」
問いかけに真っ赤な顔で困る月子。
それでも……頷いたのは、今日が郁の誕生日だから。
「ふふ、ありがとう」
微笑みキスをして。
覗き見た時計から甘い一時を計算した。