冬の恋人たち

梓月13

もこもこのダウンにブランケット。
水筒には温かい飲み物も入れて、2人ベランダで星を見上げる。

「やっぱり冬は空気が澄んでて星がよく見えるね」

「そうですね。やっぱりこのマンションを選んで正解でした」

家を探している時に、梓が条件にしたのはセキュリティ。
そして星空を見れること。
星好きの月子にとってもそれは喜ばしい条件で、時折こうして2人で空を見上げる時間を大切にしていた。

「オリオン座のペテルギウスと、こいぬ座のプロキオン……」

「それにおおいぬ座のシリウスを繋げれば、冬の大三角ですね」

「うん」

冬の星座の中でも見つけやすいオリオン座から、一際輝いて見えるシリウス、その二つを結ぶ位置にあるプロキオンを指で辿ると、2人微笑み顔を合わせる。

「冬の星座は明るい星が多いから、見つけやすいよね」

「冬の大三角の少し上にあるのがふたご座のカストルとポルックスですね」

「カストルのほうが少し暗いのは、神様の血を引いてる弟のポルックスと違って人間だからだって、錫也から教えてもらったんだけど、 双子なのに神様の血を引いている子と人間の血を引いてる子に分かれるのがずっと不思議だったの」

「神話はえてして首を傾げる内容のものも多いですからね。このふたご座の兄弟も、不死身の弟が不慮の事故で亡くなった兄と共に死にたいと、父ゼウスに懇願してまで二人共にいることを望んでいますから」

「大切な人を失うなんて悲しいお話だよね」

「そうでしょうか」

「え?」

「だって、死しても分かれることなく一つの星座としてずっと共にいられるんです。彼らにとっては幸せなんじゃないでしょうか」

不慮の事故で片割れを失う……それがすごく悲しいとずっと思っていたけれど、確かに梓の言う通りかもしれないと、月子は思う。

「でも、僕なら大切な人が死んだから自分も、なんて道は選びません」

「どうして?」

「だって、そんなことをしたら大切な人が悲しむでしょう?」

「あ……」

「本当に大切なら一緒に死んでほしいなんて、そんなこと思いません。大切だからこそ、自分がいなくなった後も幸せでいて欲しい、そう思いますよね」

「うん」

「でも、僕は先輩を一人にする気はありませんので、その心配は不要ですよ」

「梓君……。うん、梓君を信じてる」

「はい。僕は絶対先輩を悲しませたりしませんから」

ぎゅっと抱き寄せる腕に、知らず抱いていた不安が氷解して、梓のぬくもりにほっとする。
カストルとポルックスは悲しい出来事が2人を一時引き裂いたけれど、月子と梓にそれない。そう信じさせてくれるから。

「先輩。そろそろ家の中に戻りましょう」
「え? もう?」
「はい。先輩に触れたら先輩を補充したくなっちゃいました」
「……っ」

ストレートな誘い文句に頬を染めると、素直に家の中へと戻っていった。
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