惑わすのは

梓月1

「あ、梓君……」
「なんですか?」

とぼけて聞き返せば、困ったように眉をひそめる先輩。
その姿があまりにも可愛くて、つい意地悪をしてしまう。

「言ってくれないとわかりませんよ」
「だ、だから……」
「だから?」
聞こうと身を乗り出すと、真っ赤な顔で俯いてしまう。

「ち、近いよ……っ」
「ああ、すみません。気になってつい身を乗り出しちゃいました」
「?」

首を傾げる先輩にすっと手を伸ばすと、髪を一房手に取り口づける。

「梓君……っ」
「先輩、シャンプー変えました?」
「……え? シャンプー?」

きょとんと瞳を瞬く姿に堪えきれずにふきだすと、真っ赤な顔で俯いてしまう。

「すみません。いい香りだなって思って」
「この前買ってきたばかりなの。桜の香りって珍しいでしょ?」

香りを嗅ぐという名分のもとに近寄れば、あなたが逃げ出さないのがわかっていてそれを実行する僕。
再び縮まった距離に、先輩は恥ずかしそうに視線をそらす。

「先輩? 顔、赤いですよ?」
「……………っ」

耳元で囁くように呟けば、びくりと震えた身体に、気づけば抱き寄せていた。

「……本当に先輩は危険ですね」
「??」
「僕の理性を崩したのは先輩ですからね」

だからこれは僕のせいじゃないと言い訳して。
見上げた先輩にキスをした。
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