「うまい!」
「ちょっと、食べ過ぎですよ陽日先生」
「だってな……もぐもぐ……ほら、水嶋も食べてみろよ」
「まったく……。でも、確かに以前の君からは信じられないほど上手になったよね」
文句を言いつつ、おかずをつまんだ水嶋先生からの褒め言葉に、私の顔が赤くなる。
懐かしい星月学園で教育実習を始めてから、私はこうして琥太郎さんの分もお弁当を作るようになった。
そうしてお昼休みの保健室に陽日先生と水嶋先生が揃うのも、学生の頃からの慣例。
二人は私の作ったお弁当をつまんでは、感想をくれていた。
「陽日先生、水嶋先生、はいどうぞ」
「おう、ありがとな。……うーん、まずい!」
「本当、清々しいぐらいまずいよね」
お弁当とは正反対の反応に頬を膨らませと、琥太郎さんが慰めるように頭を撫でてくれた。
「俺はこのお茶が気に入ってるんだ。あいつらのいうことは気にするな」
「……琥太郎さんがそう言うから、お茶の味だけは上達しないんですよ」
「はは、そりゃ良かった」
ちっとも悪びれない琥太郎さんに、それでも嬉しくなるのはやっぱり大好きだからなんだろう。
「二人とも、のろけるのは僕たちがいない時にしてくれる?」
「なんだ、郁。妬いてるのか?」
「寂しいなら俺が構ってやるぞー水嶋!」
「ちょっ……! やめてくださいよ」
じゃれつく陽日先生に、嫌そうに顔をしかめる水嶋先生。
懐かしい日常。
懐かしい風景。
それらを再び感じることができるのが嬉しくて、自然と笑みが浮かんでくる。
「どうしたの? 顔、ゆるんでるよ?」
「え? あ、なんでもないです。み、水嶋先生は紅茶でしたよね?」
「うん」
「陽日先生は珈琲ですか?」
「お、悪いな」
二人の好みを確認すると、逃げるようにお茶を入れに行く。
紅茶と珈琲は人並みに入れられるのだけど、どうしてもお茶だけはまずくなってしまう私。
それでも、私のお茶が好きだと言ってくれる人がいるから、私はお茶を入れるのが好きだったりする。
「うん、美味しい」
「ふう。やっぱり食後には珈琲だよな」
「あれ? 陽日先生はお酒の方がいいんじゃありませんか?」
「そりゃこう、きゅうっといけたら最高だけどよ♪」
「直獅……」
「わかってるって。お酒を飲むのは夜になってからってな」
「……はぁ」
相変わらずの遣り取りに、琥太郎さんが深く息を吐いてお茶を飲む。
「あーまずいまずい」
まずいの連呼に、しかしそう言う琥太郎さんの笑顔が嬉しくて、お盆を抱いて微笑んでしまう。
だから今日も私はお茶をいれる。
大好きなあなたのために――。