あなたが好きだと言ってくれるから

琥月13

「うまい!」

「ちょっと、食べ過ぎですよ陽日先生」

「だってな……もぐもぐ……ほら、水嶋も食べてみろよ」

「まったく……。でも、確かに以前の君からは信じられないほど上手になったよね」

文句を言いつつ、おかずをつまんだ水嶋先生からの褒め言葉に、私の顔が赤くなる。
懐かしい星月学園で教育実習を始めてから、私はこうして琥太郎さんの分もお弁当を作るようになった。
そうしてお昼休みの保健室に陽日先生と水嶋先生が揃うのも、学生の頃からの慣例。
二人は私の作ったお弁当をつまんでは、感想をくれていた。

「陽日先生、水嶋先生、はいどうぞ」
「おう、ありがとな。……うーん、まずい!」
「本当、清々しいぐらいまずいよね」

お弁当とは正反対の反応に頬を膨らませと、琥太郎さんが慰めるように頭を撫でてくれた。

「俺はこのお茶が気に入ってるんだ。あいつらのいうことは気にするな」

「……琥太郎さんがそう言うから、お茶の味だけは上達しないんですよ」

「はは、そりゃ良かった」

ちっとも悪びれない琥太郎さんに、それでも嬉しくなるのはやっぱり大好きだからなんだろう。

「二人とも、のろけるのは僕たちがいない時にしてくれる?」
「なんだ、郁。妬いてるのか?」
「寂しいなら俺が構ってやるぞー水嶋!」
「ちょっ……! やめてくださいよ」

じゃれつく陽日先生に、嫌そうに顔をしかめる水嶋先生。
懐かしい日常。
懐かしい風景。
それらを再び感じることができるのが嬉しくて、自然と笑みが浮かんでくる。

「どうしたの? 顔、ゆるんでるよ?」
「え? あ、なんでもないです。み、水嶋先生は紅茶でしたよね?」
「うん」
「陽日先生は珈琲ですか?」
「お、悪いな」

二人の好みを確認すると、逃げるようにお茶を入れに行く。
紅茶と珈琲は人並みに入れられるのだけど、どうしてもお茶だけはまずくなってしまう私。
それでも、私のお茶が好きだと言ってくれる人がいるから、私はお茶を入れるのが好きだったりする。

「うん、美味しい」

「ふう。やっぱり食後には珈琲だよな」

「あれ? 陽日先生はお酒の方がいいんじゃありませんか?」

「そりゃこう、きゅうっといけたら最高だけどよ♪」

「直獅……」

「わかってるって。お酒を飲むのは夜になってからってな」

「……はぁ」

相変わらずの遣り取りに、琥太郎さんが深く息を吐いてお茶を飲む。

「あーまずいまずい」

まずいの連呼に、しかしそう言う琥太郎さんの笑顔が嬉しくて、お盆を抱いて微笑んでしまう。
だから今日も私はお茶をいれる。
大好きなあなたのために――。
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