ハロウィン

琥月10

「お邪魔します」
「おお~夜久! よくきたな」
「陽日先生、今年はなんの仮装ですか?」
「うさぎだ!」

言うやスポンと頭にかぶる姿に、やはり着ぐるみなんだと月子が笑う。

「琥……星月先生は保健室ですか?」
「あ~ちょっと待って」

遮る声に振り返れば、そこにはもふもふとした毛に包まれ、猫の耳をつけた水嶋。

「琥太にいのところに行く前に君も着替えて。はい」
「え? 私もですか?」

月子はもう星月学園を卒業した身。
卒業生として毎年恒例のハロウィンパーティに参加しているので、まさか仮装するとは思わず、衣装など用意してはいなかった。

「こういう時は楽しんだもん勝ちだぞ!」

「そうそう。陽日先生もたまにはいいこと言いますね」

「たまにってなんだ! たまにって!」

「はいはい。着替えは女子更衣室を使って。あ、琥太にいの分もよろしくね」

「わかりました」

水嶋から二人分の衣装が入った紙袋を受け取ると、月子は会釈して職員室を後にした。

 * *

「これでいいかな?」
渡された紙袋に入っていたのは、水色のワンピースに真っ白なエプロン。
そして大きな赤いリボン。

「これ、アリス……だよね?」
ということは水嶋がチェシャ猫、陽日が白ウサギだったのだろう。

「琥太郎さんはなんだろう?」

どうやら不思議の国のアリスで揃えているらしい衣装に、月子はうきうきと保健室へ向かう。
コンコン、と軽くノックすると「はーい」と間延びした気だるげな返事。
恋人の相変わらずの様子に微笑むと、「失礼します」とドアを開けた。

「……月子、か?」
入ってきた月子が見慣れぬ衣装を着ていたからだろう、面を喰らってる星月に、はいと頷き傍に寄る。

「水嶋先生が用意して下さっていたんです」
「郁か……まったく」

犯人に苦虫を噛んだように顔をしかめると、困ったように月子を見上げた。

「琥太郎さんの分もあずかってきたんですよ」
「俺もか?」
「はい。向こうで着替えてくださいね」

水嶋から預かった紙袋を差し出すと、めんどくさそうに立ち上がりながらカーテンの向こうへと消えていく。
星月が着替えている間、少しでも保健室を片付けようと机の上に積まれた書類などを分類していると、シャッと開く物音。
振り返ると、大きな帽子にシャレた服を纏った星月が立っていた。

「琥太郎さんは【帽子屋】ですね」
くすりと微笑むと、こういったイベントが嫌いでない星月は「そうみたいだな」と微笑んだ。

「せっかくの衣装が汚れるから、それぐらいでいいぞ」
少しのつもりが本格的に片付け体勢に入っていた月子を、苦笑しつつ星月が止める。

「郁たちが待ってるだろう。行くぞ」

差し出された手を握り返して、月子は嬉しそうに頷いた。
久しぶりに感じる星月のぬくもり。
卒業した月子が会えるのは、月に数回。
多忙な星月の仕事が続いてしまうと、一月会えないこともあった。

「どうした?」
「琥太郎さんだ、って思って」
「……寂しかったか?」

星月の問いに、一瞬迷ってから小さく頷く。

「あ、でも、琥太郎さんが忙しかったの、分かってますから」
「……俺も寂しかったよ」
「え?」

こぼれ落ちた本音に、握る手の力が強くなる。

「お前に会って、触れたかった」
一瞬かすめた唇に驚いて、思わず立ち止まってしまう。
そんな月子に苦笑して、優しく歩みを促す。

「後でゆっくり、な」
「は、はい」

甘い囁きに、月子の頬がさっと赤らんだ。
それを水嶋から茶化されるのは、この5分後。
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