トクベツの証

琥月1

「先生、また散らかってますよ!」
「んー? そうか?」
「私が片付けないと、すぐこうなんですから……」

次期生徒会会長選挙に向けての準備が忙しく、生徒会にかかりっきりだった間にすっかり荒れ果てた保健室の様子にため息をつく。
星月先生は生徒思いでとてもいい先生なのだけれど、部屋の片付けが苦手で、放っておくと保健室は酷い有様になるのだ……今のように。

「何でもかんでもデスクの上に放り投げるクセ、直して欲しいです」
「忙しかったんだよ」
「とりあえず片付けます。星月先生も手伝ってくださいよー?」
「別にいいんじゃないか?」
「よくありません!」

気乗りしない星月先生を一喝して、せっせと掃除していく。空が赤く染まりだした頃、ようやく保健室は綺麗になった。

「ふう、これでよし……っと。私、お茶淹れてきますね」
「おう。いつもの渋くてマズいやつを頼む」
「もう、そんなこと言うなら淹れませんからね!」

頬を膨らませて拗ねると、俺はあのマズいお茶が好きなんだと、フォローにならないフォローが返ってきた。
【渋くてマズイ茶】と評される私のお茶だが、星月先生はいつも残さず飲んでくれる。
それが嬉しくて、今日も湯飲みを二つ並べてお茶を淹れる。

「んーマズイ」
「星月先生!」
「ははは。そんなに怒るな。ほら、飴でも食え」
そうして手渡されたのは、いつかも貰った星型の飴。

「また誤魔化されてる気がする……」
「いらないのか? 保健室を片付けてもらったご褒美のつもりだったんだが……」
「……うっ。欲しいです」

甘いものは嫌いじゃない。いや、大好き。
取り上げられそうになり、反射的に答えると、星月先生はくっくと肩を揺らした。

「ははは……夜久は単純で良いな」
「……すぐそうやって子ども扱いするんですから」

年の差の余裕を見せられて唇を尖らせると、腕を引かれて視界が反転。唇に触れた柔らかな感触に、私の顔は真っ赤に染まった。

「これでも子ども扱いか?」
「……違います」

間近で微笑む綺麗な顔に、胸の高鳴りが収まらない。星月先生は色々なキスを私にくれる。
ふんわりとした優しいキスに、今のようなちょっと大人なキス。
それが先生の特別な存在になれたのだと、私に実感を与えてくれた。

「……なに笑ってるんだ?」
「え? 私、笑ってました?」
知らず緩んだ口元に慌てると、再びちゅっとキス。

「……不意打ちは反則です」
「じゃあ、いつならいいんだ?」
「え? えっと……」
「ぷっ、ははは……冗談だよ」
「もう……」

照れ隠しに膨れると、星月先生は大きな手で頭を撫でる。
子ども扱いされているようで少し悔しいけれど、それでも愛しげに撫でるその手の感触が幸せだったから、私は微笑み星月先生の肩に寄りかかった。

ちゅ……と触れる唇。
そうして愛しげに見つめる星月先生が好き。
幸せで、胸の中がいっぱいになるから。
ずっと一緒に――そう告げようとした言葉は、優しいキスに封じられた。
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