幸せのメロディー

ぬい月4

『仕事も育児も頑張るぞ!』
そう宣言したとおり、一樹さんは未来の世話を良く見てくれた。
どんなに疲れていても、帰るとすぐに抱き上げて、おしめを替えたりお風呂に入れてくれたり。
ちょっと戸惑うこともあるようだけど……とても良い父親だ。

「お? 月子、未来はなんで泣いてんだ?」

「ああ、そろそろミルクの時間だからお腹がすいてるんだと思います。ほら」

口の傍に指を寄せるとちゅうちゅうと吸う姿に微笑んで、一樹さんの腕の中から未来を受け取った。

「こればっかりはお前しかできないからな」
「ふふ、そうですね」

どんなに一樹さんが協力的でも、お乳をあげられるのは母親だけ。
においでわかるのか、とたんに探す仕草をする未来に、私はソファに腰かけると服を肌けて未来の口元に乳房を寄せた。

「おーおー飲んでるな」
「はい。いっぱい飲んでくれるので安心してます」
「そうか。いっぱい飲んで大きくなるんだぞ」

お乳を吸う未来に、一樹さんは愛しげに眼を細めて微笑んだ。

 * *

「ごめんなさい、夕飯の支度が遅くなってしまって」
「いいって。未来が最優先だろ」
「……はい」

まだ要領よく育児と家事を両立できず、今日も夕飯の支度が途中になってしまっていたのを、未来にお乳をあげている間に一樹さんが仕上げてくれていた。
申し訳なさそうに俯く私の頭を撫でて微笑んでくれる一樹さんの優しさが嬉しくて、改めてこの人と結婚してよかったと、そう思う。

「一人で頑張ろうとしなくていい。未来は俺たち二人の子だ。だから、俺を頼ってくれていいんだ」

「はい、ありがとうございます」

育児も家事も私がやらなきゃと勇んで、それでも思うようにいかない現実に落ち込んだりもするけれど。
それでもこうして一樹さんが手を差し伸べてくれるから、不慣れな育児に追われていても辛いと思うことはなかった。

「このシチュー、すごく美味しいです」

「そりゃよかった」

付き合い始めの頃は自分よりも料理が上手な一樹を恨めしく思ったこともあったけど、今は心より感謝していた。

「………ん?」
「未来の泣き声……目が覚めたんですね。私、いってきます」

目が覚めるには早すぎるから、きっと夢でも見たのだろう。
そう思い、席を立とうとすると、一樹さんが手で制しながら立ちあがった。

「さっきミルクは飲んだんだから、お腹がすいてるわけじゃないんだろ? だったら俺がいくよ」
「でも……」

いいから食べてろ、そう言って強引に私を座らせると、一樹さんは未来のいる部屋へと歩いていく。
もしもの時はかわれるように食事を済ませてしまおうと箸を勧めていると、泣き声が止んでしばらくしてから、一樹さんがリビングへ戻ってきた。

「寝ました?」
「ああ。抱きあげたら安心したのかすぐ寝ついたよ」
「ありがとうございます。ご飯、温め直しますね」

テーブルに並べられたお皿を手に取り、温め直して戻ると、一樹がじっと自分の手を見つめていることに気がついた。

「一樹さん?」
「ああ、ありがとうな」
「どうかしたんですか?」
「……あたたかいな、と思ってな」

一樹さんの言いたいことがわからず首を傾げると、一樹さんは幸せそうに微笑んだ。

「未来を抱っこしてるとさ、柔らかくてあたたかくて……この子が俺の子ども……家族なんだって実感するんだ」

「一樹さん……」

未来を生んだ時、一樹さんはありがとうと私に言ってくれた。

『俺が欲しいものを、お前は全部くれるんだな』

そう言って涙を浮かべる姿に喜びがこみ上げて、私の頬を涙が伝った。
彼に家族をあげたいと、そう強く願った気持ちは、今こうして私たちの手の中に確かな形となってある。
だからこれからもずっと、私と、一樹さんと、未来の三人で幸せを作っていこう。
大切な家族と共に―――。
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