恋人の特権

ぬい月2

文化祭二日目。
今年もクラスの出し物は喫茶店に決まり、朝から接客に追われる中、脳裏によぎるのは自分が設置したスターロード。
このスターロードを恋人と歩くのが、ずっと月子の憧れだった。

けれども、彼女の恋人である不知火一樹は多忙で、短期留学の後も時間を見つけては海外に渡っていて、一ヶ月連絡が取れないということもざら。
そんな彼に無理を言うことも出来ず、月子はその夢を言えずにいた。

そうしている間に文化祭は終わり、片付けのためにスターロードにやってきた月子が翼や颯斗たち生徒会メンバーを待っていると、不意に現れた人に驚き瞳を瞬いた。

「よ、月子」

「……一樹会長? どうしてここにいるんですか?」

「おいおい、久しぶりに会った恋人への第一声がそれか? ……可愛い恋人に会うために決まってるだろ?」

相変わらずの横柄さに、それでもわき上がるのは喜び。

「ほら」
ちょいちょいと自分の隣りをさす一樹に、月子は照れくさそうに歩み寄ると、手を取られて。ぎゅっと握りしめてくれる大きな手に笑顔が浮かぶ。

「今年も頑張ったな」
「はい。やっぱり文化祭にはかかせませんから」
「そうだな。綺麗なものは何度見てもいいもんだ」

毎年生徒会が設置しているスターロード。
アーチ形に電飾を飾ったりと大変な手間がかかるのだが、それでも出来あがった物をみんなが楽しんでくれている姿を見ると疲れが吹き飛んだ。

「じゃあ行くか」
「え?」
「せっかくスターロードに来たんだ。じっくり見ようぜ」
「……はい!」

一樹の誘いに一も二もなく頷いて、二人で光の道の中を歩く。

「一樹会長。私、ずっと恋人とスターロードを歩くことが夢だったんです」

「そうだったのか? だったらもっと早く来るんだったな」

「いいんです。今、こうして一樹会長と歩けてますから」

「……そうか」

幸せそうに笑う月子に微笑んで、ぎゅっとその身を抱きしめる。

「……お前はもっと俺に甘えていいんだぞ。お前に甘えられるのは、恋人である俺の特権なんだからな」

「ふふ、特権なんですか?」

「ああ、そうだ。だから、もっと自分がして欲しいことを言っていいんだ。お前の望みを叶えるぐらいの甲斐性は持ち合わせてるぞ?」

「……もう叶ってます。一樹会長が叶えてくれました」

恋人とスターロードを歩くこと。星月学園に入学してからずっと抱いていた思いは、今叶ったから。

「お前は本当に可愛いな」
顎を持ち上げられたと思ったらキスが降り落ちて、顔が真っ赤に染まっていく。

「か、一樹会長……っ」
「逃げるなよ。もっとお前にキスしたい」

甘い声で囁かれた要求は跳ねのけることなんて出来るわけもなくて、再度重なった唇に胸が熱くなる。

「会いたかった……」

その一言に会えない期間の彼の想いがこめられていて、寂しかったのは自分だけではないんだと嬉しくなって。
私もです、とこぼれた本音に深まるキス。
そうしてしばらく互いを抱きしめ、そのぬくもりを感じ合う。

「……なーなー、まだ出ていっちゃダメなのか?」

「ふふ、もう少しだけ二人きりにしてあげましょう」

「……そうですね」

二人を見守るのは、星月学園生徒会である三人。 突然やってきた一樹にしばらくスターロードの片付けを待つよう、颯斗は頼まれたのだった。

「いつも頑張ってくれている月子さんへのご褒美ですから」

そう微笑むと、そっとその場を離れていく。
その姿に一樹はこっそり心の中で感謝するのだった。
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