「一樹……」
「なんだよ」
「お前のそんな姿を見る日がやってくるとは思わなかったよ……」
「はあ?」
「まさか前生徒会長ともあろうものが覗きなんて……」
「ばっ……誰が覗きだっ! 俺はだな、あいつを心配して……っ」
よよよと涙を拭う真似をする桜士郎に、不知火が慌てて否定する。
二人がいるのは、星月学園。
この春、卒業したばかりの二人がなぜこの場にいるかというと――。
「男子校に近いこの星月学園で、あいつはたった一人の女子なんだぞ? 彼氏として心配するのは当然だろうが!」
「それなら素直にマドンナちゃんに会いに行けばいいだろ?」
「卒業してすぐ顔を出すような寂しがりみたいな真似、出来るわけないだろ!」
「……お前はつくづく難儀な奴だよ」
こうして覗いている時点で十分に寂しがりだろうと、桜士郎がため息をつく。
今日もスクープ求めて町を出歩いていたのだが、そこでたまたま遭遇したのが不知火一樹の覗き場面だった。
確かに星月学園は共学とはいえ、専門分野に偏っているからか女子は月子ただ一人。
不知火が心配するのも当然と言えば当然なのだが――。
「一樹会長!?」
耳に届いた声は、不知火が誰よりも大切にしている少女のもの。
反射的に振り返った瞬間、足元の石につまづく姿に、大慌てで駆け寄り受け止める。
「ったく、お前は本当に危なっかしいな」
「ご、ごめんなさい。でもどうして一樹会長がここにいるんですか?」
隠れていたことも忘れてとっさに飛び出してしまった不知火は、月子の問いに気まずそうに視線をそらした。
「あー、それは、だな……」
「一樹はね、マドンナちゃんに悪い虫がついてないか心配して覗きに来たんだよ~」
「え?」
「桜士郎、てめっ……!」
あっさりばらした悪友に、不知火が怒りの形相を向けた。
「そ、それじゃあね~マドンナちゃん~」
「待て――っ!逃がすか!」
素早く逃げ出した桜士郎を追いかけようと、身をよじった不知火の服がつんと引っ張られる。
驚き見れば、そこには服の裾を掴んだ月子。
「……来るんだったら、連絡ください」
「連絡しなくても、こうして会えただろ。ここにいれば月子が来るってわかってた」
「…………」
いつもながらの俺様節に、怒りや寂しさが消えていく。
「……会いたかったです」
小さく本音を漏らすと、腕が引かれ。
頭ごと、力強く抱きしめられる。
「俺も……月子の顔が見れなくて寂しかった」
「本当ですか?」
「当たり前だろ。大事な彼女が心配で、こんなとこまでやってくる彼氏なんだぞ」
不知火の言葉に、先程桜士郎が言っていたことを思い出して、顔が赤くなる。
「……というわけで、お前スカート少し長くしろ。こんな短いスカートで星月学園を歩かせるなんて危険極まりない」
「ふふ、一樹会長は心配性ですね」
そう言って笑った瞬間、落ちた影はしばらく離れることはなかった。