壁を取り払う

翼月2

「翼君っておしゃれだよね」
「ぬ?」

月子の指先が示すのは、翼が首にかけているヘッドフォン。

「これは単純に音楽を聞くためだぞ?」

「え? でも翼くんが耳につけてるの、見たことないよ?」

「それは、ここにいると楽しくてつける必要ないからだぬーん」

「?」

意味がわからず首を傾げると、翼は苦笑しながら説明をする。

「俺さ、昔から周りの奴らにカワリモノって思われてて、一人でいることが多かったんだ。自分がカワリモノだから一緒にいる奴もカワリモノに見られる。それなら友達なんかいらないし、一人でいる方がいいって」

翼の言葉に思い出したのは、以前彼のクラスを訪れた時のこと。
生徒会ではいつも楽しそうに笑っている翼はそこにはおらず、ヘッドフォンをつけてクラスメイトの呼びかけに無表情で振り向いた姿だった。

「でもさ、ぬいぬいやそらそら、それに君が教えてくれた。一緒にいると楽しくて、あったかくて、嬉しいって気持ち。だから今はみんなと一緒に過ごすのが嬉しい。人とかかわることが楽しいって思えるんだ」

「翼君……」

「だから、これはもういらないんだけど、ないとなんだか落ち着かないんだよな」

「ふふ、ヘッドフォンは翼君のマストアイテムだもんね」

「ぬぬ?」

「いいんじゃないかな。無理に外さなくても、翼君はもう一人でいなくても大丈夫でしょう?」

「うぬ」

「だから、それはおしゃれとしてつけてればいいと思うの」

以前は自分と他人を隔てる【壁】の役割を果たしていたヘッドフォン。
けれど翼が心を開いたことで、【壁】は消失した。
だからもう、ヘッドフォンは彼にとって【壁】ではなくて、彼を彩るおしゃれの一つなのだと伝えると、翼の顔に笑顔が広がって。
ぎゅっと、身体いっぱいで抱きしめられる。

「やっぱり月子はすごい。月子の言葉はいつだって俺を幸せにしてくれるんだ」

「そ、そんなことないよ」

「ううん。ずっと、月子は俺を助けてくれてる」

祖母に拒絶されたと、そう思った時からずっと、人といることが怖くなった。
けれども一人でいるのも怖くて、どうしていいかわからなかった。
そんな時、生徒会に誘ってくれたのが不知火。
そして、みんなと関わる中で戸惑っている翼に手を差し伸べてくれたのが、月子だった。

「俺は月子が好きだよ」
振り落ちたキスを受け止めて。大好きな笑顔に心があたたかくなる。

「私も」
「ぬーん。月子も、ちゃんと言ってくれないとダメだぬーん」
「えっと……私も、翼君が好きです」
「へへ、俺も大好きだよ!」

恥ずかしくて頬が赤く染まっているのがわかったが、それでも翼が喜んでくれているのが嬉しくて、彼がしてくれたように腕を伸ばしてぎゅっと抱きしめる。

「月子、いいにおいがする……」
「翼君、恥ずかしいよ……っ」

頭一つ違う身長差に、肩に顔を埋めていた翼に照れれば、微笑まれて。

「月子はあたたかくて気持ちいい」
ぎゅっと愛おしげに抱きしめる腕に、顔を赤らめたまま抱きしめ返した。
Index Menu ←Back Next→