「ねえ、マンマ。マンマはルカのこと好き?」
「ええ。大好きよ」
「ルカのどんなところが好き?」
「優しいところも、料理が上手なところも、裁縫が上手なところも。そして、とても強くて頼りになるところも好きよ」
「……強い?」
フェリチータの言葉に、マリアはうーんと首を傾げる。
マリアからみたルカは、いつもパパ(デビト)やパーパ(パーチェ)にからかわれ、ファミリーのみんなからもお菓子作りをねだられてと、おおよそ【強い】というイメージをもつものではなかったからだ。
「そう。どんなに苦しくても逃げないで立ち向かう、強い人。マンマはずっとルカに助けてもらっていたの」
「マンマが?」
「ええ」
マリアが知る母は、優しくてファミリーの男達にも負けない強い人。
だからそんな母を助けているという父が、マリアには不思議で仕方がなかった。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい、ルカ」
「ルカ! おかえりなさいー!」
ドアを開けて姿を見せたルカに駆け寄ろうとしたマリア。
けれどもあまりに慌て過ぎたのか、足が絡まりあと一歩のところで床にダイブ……するはずが。
「……ふぅ。マリア、大丈夫ですか?」
「うん。……ルカ、ありがとう」
「どういたしまして。急に駆け出すと今みたいに危ないので、これからは気をつけるんですよ」
「はーい」
自分を抱きとめ、頭を撫でる掌が温かくて、マリアはルカの胸に抱きすがる。
「マリア?」
「……やっぱりわからない」
「何がですか?」
「マンマがルカは強いって。でも、マリアにはそう見えない」
「ええっ!?」
がーんとショックを受けるルカに、フェリチータは微笑むと、そっと2人に手を差し伸べる。
「さあ、立ち上がって。マリア、ルカにお茶を入れてあげましょう」
「うん」
「ああ、今日は私がやりますから、フェリチータは座っていてください」
「でも……」
「私が、やりたいんです。マリア、手伝ってくれますか?」
「うん!」
立ち上がってスカートの裾を直してやると、嬉しそうに微笑む娘の姿に破顔して、ルカはこのうえなく幸福そうにその手をとってキッチンへと歩いていった。