「……あの、フェリチータ?」
「…………なに?」
「どうしてそんな不機嫌なんですか?」
いましがた肌を合わせあい、互いのぬくもりにまどろむ……はずが、ふと覗きこんだフェリチータの顔が不機嫌に歪んでる様にルカは慌てて彼女に問う。
が、その返事はなく、何か彼女の機嫌を損ねるようなことをしてしまったかと、ルカは必死に先程の情事を思い出す。
「なにかフェリチータの気に障ることをしてしまいましたか?」
一瞬の間の後に小さく振られた頭。
けれども【一切気に障ることはなかった】という反応ではないことは、従者として長年傍にいたルカにはわかって。
けれどもどうにも思い当たる節がないとあって、ルカは大いに慌てていた。
そんなルカに、ぽつりと小さな呟き。
「……ルカ、慣れてる」
「え? お嬢様?」
「……………」
再び黙り込んでしまったフェリチータに、ルカは先程の呟きを脳内で反芻する。
慣れている?
「あの……私が何に慣れているんでしょうか……?」
「……………」
問いかけると、怒りと悲しみがないまぜになった表情が返ってきて。
そんな表情をさせているのが自分なのだと思うと胸が痛んだ。
「フェリチータ。貴女が何を悲しんでいるのか、教えてもらえませんか?」
「……ルカは年上だから他に経験があっても当然なんだと思う。でも……そう思ったらなんだか…」
「……嫌だったんですね」
「………うん」
自分の気持ちを自分の言葉で伝えてくれるフェリチータ。
その意を汲んで理解したルカは、そっとフェリチータの頬を掌で包みこんだ。
「……すみません。私には過去を変える力はありません」
「……うん。我が儘言ってるよね」
「私を想っての我が儘なら嬉しいですよ」
「こんなこと言ってもルカを困らせるだけだってわかってるのに、前にデビトやパーチェが言ってたことを思い出したら、胸がもやもやして……」
ルカは女の人にもてていたと、以前デビトとパーチェに聞いていた。
それはフェリチータがルカと暮らし始める前の話で、一回り以上年が離れているルカがそういった経験があることはおかしなことでもなんでもないと、そう、頭ではちゃんと理解しているのに、どうしても感情が反発していた。
フェリチータをリードするルカに。
そう出来る彼の過去の経験に。
「でしたらフェリチータが上書いてくれませんか?」
「上書く?」
「ええ。貴女で私を染めてください。過去など気にならないぐらいに」
「私がルカを染める……」
「はい」
思いがけないルカの提案に目を丸くするも、少しだけ身を乗り出してルカにキスをする。
「……ん……フェル?」
「上書き。……していいんでしょ?」
「……はい」
驚いた表情を浮かべたルカが、幸せそうに破顔して。
そんな彼に微笑むと、もう一度唇を重ね合わせて、再び甘い一時に身を委ねた。