幸せ

ジョリフェリ19

目が見えなくなってから、ジョーリィはよく触れるようになった。
それは視力の代わりにフェリチータを感じようとしているようで、恥ずかしいと思う時もあるが素直に身を任せていた。

ぬくもりは安らぎを与えてくれる。
そのことを幼い頃、マンマやルカが教えてくれた。
ジョーリィは弱音をこぼしはしないが、見えないことによる身体への負担は相当なもののようで、時々共に寝ている時に苦しげに呻くこともあった。
そんな時、ジョーリィは彼女を遠ざけようとするから、フェリチータはそれを優しくあやすことを覚えていった。

モンドに連れ出されるまで過酷な幼少期を過ごしたからか、ジョーリィはモンド以外を信じないし、甘えることもない。
けれどもフェリチータは彼の妻。
彼の苦しみも、喜びも、共に分け合うと誓ったのだから。

彼の拒絶に抗い触れあえば、言葉に反して伝わってくる彼の願い。
フェリチータに触れたい。
声を感じたい。
その姿を――目に映したい。
だからその手を取って……そっと顔へそわせる。

「……なんのつもりだ?」
「私は変わらないよ」

ファミリーの仲間は、フェリチータが幹部らしくなったと褒め、立派なドンナとなる日も近いと言うが、彼女自身は変わりはなかった。
背が伸びたわけでもない。
マンマのように化粧で彩るわけでもない。
髪型はもう少し大人っぽくしたらどうかと言われたが、それを拒んだのはフェリチータの意思。

ルカたちの研究によってジョーリィの身体はだいぶ回復したが、それでも視力を元に戻すまでには至ってはいなかった。
だから、彼の目が再び彼女の姿を映した時に浮かぶのは、喜びと安堵であってほしい。
それがフェリチータの切なる願いだった。

「……違うな」

「え?」

「私が知るお嬢様の肌はもっと滑らかで、手に吸いつくように弾力があった」

「それは老けたって言いたいの?」

「フッ……ご名答、と言いたいところだが答えは君自身わかっているだろう。また夜更けまで仕事をしていたのか」

「…………ッ」

「若さに任せていられるのも十代まで。これからは身にあった仕事量を覚えることだ」

辛辣な物言いに頬を膨らませると、クックッと低い笑い声をこぼして掌がその形を確かめる様に、ぷいっと顔を背けた。

「おや? この手で感じるように言ったのは君だったはずだが?」
「ジョーリィが意地悪なのが悪い」
「私が意地が悪いなど今更だろう」

何を言っても勝てないのは昔からで、怒りを吐き出すようにため息をつくと、ぼふんと彼の胸に身を委ねた。

「君は本当に……興味深い」

その言い分に、前なら実験動物のように言うなと怒ったが、それが彼なりの愛情表現だとわかったから、ふふっと笑う。

「何を笑っている」
「ジョーリィが偏屈だから」
「そんな男を愛したのは君だ」
「うん」

素直に頷けば和らいだ気配を感じて、ジョーリィが生きていてよかったと心から思う。
キスをすると共に寝転んで、互いのぬくもりに幸せを感じて、フェリチータは愛してると伝えた。
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