ひげ

雅真3

*漫画版の設定を一部取り入れてます

「雅刀のひげ? 絵師の時は剃るって前に言ってたよ」
「え? そうなの?」
「うん。その方がお客さんの受けがいいんだって」

そう言えば以前、雅刀はよく女の人に懸想されるんだと暁月から聞いたと、瑠璃丸が言っていたことを思い出し顔を曇らせた。

「あ! でも、今はもう情報収集の任にはついてないし! 雅刀は御使い様一筋だから!
……ってぇ!」
「雅刀!」
慌てて取り繕う瑠璃丸の頭に落ちた拳骨に、真奈はその後ろに立つ雅刀を見上げた。

「お前はまた勝手なことを……」
「わあ! 暴力反対! 御使い様助けてー!」
「雅刀」
雅刀は深く息を吐くと視線を真奈に移した。

「あくまで情報収集のためだ。他意はないぞ」
「……わかってるよ」

雅刀が絵師をしていたのは情報収集のため。
そしてそのターゲットが女性だというのも、軒猿の任務であるだけ。
けれど胸がもやもやとしてしまうのは、ひとえに恋の成すものなのだから仕方ないだろう。

「ひげ剃って」
「………は?」
「私もひげを剃った雅刀を見てみたい」
「……なんでそんなものを」
「見たい」
頑なに剃ることを要求する真奈に、雅刀は深々とため息をついた。

「……ひげが嫌なのか?」
「嫌じゃないけど、前からない方がかっこいいんじゃないかなと思ってた」

惚れた女にかっこいいと言われて嬉しくないわけはない。
わけはないが正直面倒くさいというのが雅刀の本音だった。

「雅刀はどうして顎だけひげを伸ばしてるの?」
「別に意味はない。ただ剃るのが面倒なだけだ」
「他は剃るのに?」
「………………」
「あ、やっぱり暁月が言ってたように童顔なのを気にして?」
「あいつ……そんなことを言ってたのか」
「逆におじさんに見える」

逆転した年の差に、おじさん呼ばわりがぐさりと突き刺さった。

「雅刀がひげを伸ばしてるのって先代に憧れてだよね」
「は?」
「でも刀儀さんは口の上も伸ばしてるよ?」
「ああ、それは、食べる時にひげについてかっこわる……ってぇ!」
再び落ちた拳骨に瑠璃丸が頭を抱えてうずくまった。

「勝手なことを言うな」
「……っつう~。だったら、伸ばしてる理由、御使い様に言ってみなよ」
「だから、面倒なだけだと言っているだろう!」
「だったら剃ってもいいよね」

何が何でも剃らせたいらしい真奈に、雅刀はチッと舌打った。

「剃って」
「なんでそんなに剃らせたいんだ」
「見てみたいから」
堂々巡りの様相に、瑠璃丸が横から助け船を出した。

「雅刀、御使い様は悋気してるんだよ」
「え? 悋気……って?」
「……嫉妬だ」
瑠璃丸と雅刀の言葉に、真奈がバッと顔を赤らめる。

「そうなのか?」
「……っ、そ、そうだよ! 悪い!?」
「開き直るな……」
「他の女の人には見せて、私には見せてくれないの?」
「……なんか痴話喧嘩みたいだよね」
「ウキャ」
「俺たちお邪魔かな?」
「ウッキャ」

二人の様子に瑠璃丸とサルは顔を見合わせると、そっとその場を後にする。
その後、ひげを剃った雅刀に真奈が『二度とひげは伸ばさない』約束をさせたとかなんとか。
Index Menu ←Back Next→