目の毒

雅真1

艶乃から何やら受け取って、嬉しそうに出かけていく真奈。
今日の彼女の警護を担っていた雅刀は、当然ながら気づかれないようその後に続いた。

「この辺りがいいかな」
呟きに続く水音。

「冷たっ! でも気持ちいい……」

ほっとしたような、嬉しそうな声に、確かに今日は特に蒸し暑いなと思ったのもつかの間。
ハッと覗きこめば、そこにはあられもない姿をした真奈。

「やっぱり水着作ってもらって正解だったなー……うわっ!?」
「馬鹿! 何やってるんだ!?」
大慌てで川辺に脱ぎ捨てられていた彼女の黄色い小袖を取ると、水の中の真奈にすっぽりと被せた。

「ま、雅刀……? どうしてここにいるの?」

「護衛に決まっているだろう! 何度も同じことを言わせるな! いいから、早く水から上がれ! こっちへ来い!」

「ちょ、ちょっと……」

驚く真奈を問答無用で抱きかかえるように川辺から引き上げると、彼女の口から不満の声が漏れた。

「せっかく水浴びしてたのに……」

「そんな恰好でか?」

「え、これ? だってこれ、水着だよ? 何かヘン? あ、もしかして似合ってない?」

「そんなことを言っているんじゃない! そんな恰好でいるところを誰かに見られたらどうするんだ!?」

見当違いな反応を返す真奈に頭を抱えたい衝動を堪える。

「あんたの時代とは違うんだよ! そんな見えすぎの……いや、無防備な……つまり、その」

真奈が水着と称する小袖は通常の小袖と違ってやけに透ける布で、体のラインはおろか肌さえもくっきりとうつしだしていて、雅刀はどうしようもなく動揺している自分に歯噛みした。
こんな姿を他の奴らに見られたらと思うと、腸が煮えたぎりそうで、今日の護衛が自分で良かったと、心の底からそう思う。

「とにかく、少しは気にしろ!」

これ以上は目の毒だと、ぐらつく理性を必死に立て直して小袖にくるんで真奈を抱き上げると、急ぎ家へと駆けていく。
そうして行水用の盥を引っ張り出し井戸の水を汲み入れると、そこに真奈を放り投げた。

「いった……!」
「水浴びがしたければここでしろ」
「……って、これ、盥じゃない」
「行水用の盥だ。文句があるか」

誰の目に触れるかわからない川辺より、遙かに制限されるであろう庭での行水に真奈が頬を膨らませるが知ったことじゃない。
行水中は覗くなと言い含めれば、他の者の目に触れることはないだろう。

「ねえ、この格好ってそんなにいけないと思う?」
不思議だとばかりに一緒に水浴びしているサルに問いかける真奈に、大げさに目を覆う瑠璃丸のサル。

(サルでさえもわかるというのに……まったく……)

あまりに無邪気で無防備な真奈に、再び姿を隠して警護の任に戻った雅刀は深々とため息をついた。
脳裏に焼きついた真奈の『水着』姿。

「確かに……大きかったな」

幼い頃、涙を堪える自分を抱き寄せた真奈のふくよかな胸を思い出し、再び顔が火照ってくる。
あの頃は幼すぎて劣情を抱くことなどなかったが、今の自分は男盛りと言われる年齢で、あの頃のように無邪気でなどいられるはずもない。

「まったく……」
大きく息を吐き出すと、必死に焼きついた姿を払うのだった。
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