隣の家のお兄ちゃん。
そんな彼が幼馴染みから同じ学校の先輩、そして恋人になって。
初めて友達以外と行く夜中の初詣に、花は緊張していた。
「ほら、ぼうっとしてると人混みにまぎれて分からなくなるよ?」
「は、はい」
孔明の言葉にぎこちなく頷いて、彼の後をついていく。
確かに境内の中は人が溢れていて、気を抜けばあっという間にその姿を見失ってしまいそうだった。
慌てて彼に追いつこうと歩を早めるが、逆行する人の波にのまれて、お詣りの列から外れそうになった私を引き戻す手。
「どこに行くつもりなのかな? 君は」
「す、すみません。ありがとうございます」
「本当にあぶなっかしいのは変わらないね」
「あの、孔明先輩?」
「なに?」
「その、手……もう大丈夫ですよ?」
繋がれたままの手に落ち着かずに指摘すれば握り返されて。
「だーめ。また流されたら探すの大変でしょ? こんな夜中に君を一人になんかさせられないし。それと、呼び方」
「あ」
「僕は君のなんだっけ?」
「孔明、さんは私の……こ、恋人?」
「どうしてそこで疑問形になるかな」
はぁとため息をつく孔明に、けれども照れくさいのは仕方なかった。
だってずっと幼馴染みで、花の一方的な片思いで、こんなふうになれるなんて思ってもいなかったから。
「可愛い恋人と手を繋ぐのは当たり前だから文句は聞かないよ。呼び方は今度間違えたら……うん、何かペナルティを考えよう」
「え、えぇ!」
「君が間違えなければ問題ないでしょ?」
「そうですけど……」
ううぅ、と小さく唸り俯いた花は、孔明が愛しげにその姿を見つめていたのに残念ながら気づかなかった。
2019年賀SS