秋の恋人たち

公花6

「食欲の秋に読書の秋、スポーツの秋に……芸術の秋?」
朝からずっと見続けている書簡の山に、ふと外を見た花は紅く染まった葉にぽつりと呟いた。

「花? それはなんですか?」
「あ、外を見てたら秋なんだなと思って。私のいた世界では秋は色々意欲を掻き立てられるといわれてたんです」
「ほお……」

どうして秋という季節にだけ意欲がわくのかわからないが、きっと花自身問うてもわからないのだろうと、公瑾はそれならと代わりの事を問う。

「では、あなたは何に意欲がわいたのですか?」
「私ですか? そうですね……」
公瑾の問いに瞳を瞬かせると、しばし思案した後に「芸術の秋」でしょうか、と答えた。

「芸術ですか……。あなたがそのようなものに心動かされていたとは知りませんでした」

「いえ、公瑾さんの琵琶は綺麗な音だよね、と思っただけなんです。すみません」

「謝ることなどありませんよ。せっかく興味をお持ちになったのなら弾いてみませんか?」

「え? 私がですか?」

「ええ。よろしければ私が教えて差し上げましょう」

ちょっとした思いつきが思わぬ状態を招き慌てるが、公瑾が奏でる琵琶の音色は好きだったので、花はわかりましたと彼を見上げた。

「はい、お願いします」
「では早速ですが今宵はどうでしょう?」
「え? 今夜ですか?」
「ええ。日中はどうしても政務が立て込むので……何か不都合が?」
「そうですよね。……わかりました、お願いします」

急な約束に一瞬戸惑うが、公瑾の言い分はもっともで、言い出したのは自分ということもあり、花は素直に頷いた。 そんな花に、ひっそりと公瑾が笑みを浮かべる。
花が琵琶に興味を抱いたのには驚いたが、自分の音色に惹かれてと言われて嫌な気はなく、何より花と多くの時間を過ごせることが嬉しくて、公瑾の胸を弾ませる。

夏が過ぎて日が暮れるのも早まり、必然政務の終わりも早まり、花と過ごす時間が増える。
公瑾にとっても、秋は好ましいものだった。
Index Menu ←Back Next→