赤の花嫁衣装

仲花8

婚儀の衣装を初めて見た時、花は憧れより驚きの方が強かったことを覚えている。
というのも花の世界とは違い、鮮やかな赤の衣装だったからだ。
花の抱く花嫁のイメージといえば、純白のドレスに綿帽子。
真っ白のままで嫁ぎ相手に染まる――そんな意味合いがあると聞いたことがあった。

(まあ、お色直しとかでカラーのドレスや色打掛に着替えたりもするんだけどね)

それでも、花嫁の衣装といえば白の印象が強く、真っ赤な衣装はインパクトが大きかった。
以前、花はこの衣装を着て、尚香の代わりを務めたことがあった。
でも今度は――。

(仲謀の横に……本当の花嫁として着るんだ)

偽りの花嫁として玄徳の横に並んでいた時とは違う幸福感が溢れてきて、花は仲謀に会いたくなった。
花嫁衣装は仲謀のため。
彼との婚儀で着るのだから。
着つけられている間中、そわそわと落ち着かない花の様子に、女官は初々しくて可愛らしいと微笑み、君主の元へと導いていく。
女性よりも身支度の早い仲謀は、現れた花を見るとホッと表情を緩め、歩み寄ってきた。

「よく似合ってる」
「あ、ありがとう……」

馬子にも衣装、などと言われたらと内心身構えていた花は、愛し気な仲謀の眼差しに頬をそめると彼を見る。
正装時に上げる前髪は、綺麗なアイスブルーの瞳を露わにして、貫録さえ感じさせるたたずまいに胸の鼓動が高鳴りだす。

「大丈夫かな……手順忘れちゃいそう……」
「わからなくなったら俺を真似ればいい」

だから心配するなと、笑ってくれる様が仲謀の懐の広さを感じて、ふっと緊張が和らぐ。

「うん。ありがとう、仲謀」
「なんだよ。今日はずいぶん素直じゃねえか」
「だって、仲謀が優しいから」
「俺様はいつでも優しいんだ」

普段通りの俺様口調に噴き出すと、仲謀も微笑んで、ああ、この人を好きになってよかったと改めて思う。

「仲謀、これからもよろしくね」
「あ?」
「えっと、不束者ですがよろしくお願いします」
「なんだよ、それ」
「私の国での花嫁が花婿に向けて言う誓い、かな」
ドラマでの知識しかないため、うろ覚えだがつい口をついた言葉に、仲謀が首を傾げるが、花にとっては婚儀に向けた心構えだった。

「仲謀様」
「わかった。いくぞ」
差し出された手に重ねると、婚儀が執り行われる部屋へと花は並んで歩いていった。

花嫁衣装は赤いけれど、花が仲謀と共に歩いていく決意は変わらない。
仲謀の色に染まるのではなく、二人支えあい、同じ前を見つめて進んでいく。
その想いを新たに、花は婚儀へ臨んだ。
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