ハロウィン

仲花38


ハロウィンーー海外由来のそれは、この国では仮装をして菓子を渡し合うイベントになっていた。
上流階級である孫家ではもちろんそんな庶民的なイベントを楽しむことはないが、今初めて仲謀はハロウィンに参加しようとしていた。
何故なら決まり文句を言うだけで、花から菓子を貰えるのだ。
しかも万が一にも菓子がなければ悪戯も出来る。
過った考えにドクンと鼓動が大きく音を立てると、のんきな顔をした花が部室にやって来た。

「おま……っ、何て格好してんだ!」
「え? ナースだけど」

当然のように答えるが、今時そのようなミニスカートのナースなどいはしない。
普段以上に短いスカートから覗く足は肌色のストッキングで覆われ、それがまた一段と艶かしさを増していた。

「仲謀は民族衣裳? わあ、格好いいね!」

やるなら半端なものなどもってのほかと、用意したのは三国時代の衣裳。
市販品とは比べようもない豪華なもので、学園内でも異彩を放っていた。

「じゃあトリック……」
「俺様が先だ! トリック・オア・トリート!」
「はい」

花の言葉を遮って先に決まり文句を告げると、間髪入れずに菓子を渡される。

「何で持ってるんだよ!」
「何でってハロウィンだし、仲謀も聞いてきたじゃん」
「そこは切らしてろよ! しかもなんだこの安い市販品は。せめて手作りぐらいしろよ!」
「え~」

めんどくさいとおもいっきり顔に浮かべた花に、しかし期待を裏切られた仲謀はガリガリと苛立ち髪を掻く。
そんな仲謀に首を傾げながらも、花も決まり文句を口にした。

「トリック・オア・トリート」
「俺様から巻き上げようなんざ百年早いんだよ」
「持ってないなら悪戯するね」
「話を聞けよ! ったく……ほら」
「え、これ、あの三ヶ月先まで予約いっぱいの有名店のチョコ!?」
「俺様がそこらの市販品をやるわけねえだろうが」
「嬉しいけど差が……」

花が用意したのは大袋に入った菓子を個包装し直したもの。
あまりにも釣り合いが取れず、さすがに受け取るのが申し訳なくなる。

「だったら作って持ってこい」
「いいけど私が作れるのなんてクッキーぐらいだよ?」
「端からお前にパティシエ並みのものなんて期待してねえ。だが作るのは俺様だけにしろ」
「え? どうせなら舞踏部の皆にも……」
「俺様だけだ。いいな」

横暴だと眉をしかめつつも受け取ってしまった手前、仕方なしに花が頷く。

「あと他の奴が来る前にとっとと着替えろ」
「そんなに変?」
「着替えろ」
「もう……せっかく買ったのに」

ブツブツと文句を言いつつ、更衣室に消えた花に仲謀がしゃがみこむ。
必死に煩悩退散させるべく躍り狂う仲謀の姿に、後からやって来た部員が生温い視線をやっていた理由を花が気づくことはなかった。
#三国恋戦記・今日は何の日【お題ハロウィン】
Index Menu ←Back Next→