「ん……ぅん……ん、ん……っ」
「……何だよ」
延々続くキスに息苦しさを訴えると、不満そうに離れた仲謀に、ふはあ!と息を吸う。
「長過ぎ、だよ……苦し……っ」
「足らねえ」
「や、……んぅ……ん、んんっ」
「……ちっ、何なんだよ!」
「だか、ら……苦しい、んだ、よ……っ」
呼吸も整わないうちに再び塞がれたので抗議すると、不機嫌に声を荒げられるが無理なものは無理だときっぱり言う。
「お前が下手くそなだけだろ! 鼻で吸えばいいだろうが」
「そんなの、無理」
「無理じゃねえ」
何せ16年の間、付き合ったことなど一度もないのだ。
キスだって当然仲謀とが初めてで、いきなりこんな長いキスをされたら対応できるわけなかった。
「ふーん、仲謀は慣れてるんだ」
「なっ……!」
「ふーん」
「……んだよ、文句あるのかよ」
「別に」
慣れてるということは、つまり花の他にもこういうことをした事があるということだ。
別に知り合う前のことだし、過去をどうこうしたいわけではないが、つい言い返した結果こじれてしまった。
しかし、花の他にもと考えるのはやはりいい気分はせず、もやりと胸がざわめくのに眉が寄る。
「クソッ」
舌打ちが聞こえたと思ったら肩を引かれて、噛みつくように唇が重ねられてまた、と胸を押そうとして、すぐ離れたのにきょとんと見上げると、苦虫を噛み潰したような仲謀の顔が目に入った。
「慣れてるわけねえだろ!」
「え?」
「だから、お前以外としたことなんてないんだよ!」
「ウソ」
「嘘じゃねえ」
まさかと見つめると、彼の耳が赤いことに気づいて呆然とする。
「仲謀も初めてだったの?」
「悪かったな」
初めてというのがどうもいいことだと思っていないらしく、苛立ち不貞腐れて目を細める仲謀に微笑む。
「全然悪くないよ。嬉しい、かな」
「何でだよ」
「仲謀も私が初めてだったら嫌だって思う?」
「嫌じゃねえ。ってか、初めてじゃないのかよ」
「初めてだよ」
一瞬焦りを見せるも訂正するとホッとして、先程までのピリピリとした空気がやわらかく戻る。
「だから、もう少し手加減して欲しい」
「手加減ってどうしろってんだよ」
「え~と、長いのは苦しいから程々で」
「程々がわからねえ」
「え~」
要望は叶ってないのに何だかおかしくて笑みがこぼれる。
「息継ぎ覚えるから、苦しいって言ったら一旦離れて」
「……わかった」
提案を受け入れてくれる仲謀にありがとうとお礼を告げると、じゃあもういいなと、少し緊張した顔で近づく彼に、目を閉じる。
けれど顎を引いたことで思いっきり額をぶつけ合い、散ったムードの中で言い合うのは数秒後の事だった。
20210523キスの日