「……何してんだ?」
執務が終わって部屋に戻ると、ぴょんぴょん跳び跳ねている花を訝しげに見る。
「ち、仲謀? 今日は早かったんだね」
「まあな。で? 何やってたんだ」
話を反らそうとする花にそうはいかないと問いを繰り返すと、視線をさまよわせてから「エア縄跳び」と言葉が返る。
「えあ……なわとび?」
「ええと、縄を跳び跳ねる運動のことだよ」
花の説明に先程見た光景を思い出すと、「縄なんかなかったじゃねえか」と問いを重ねる。
「だから「エア」なんだよ」
あるつもりになることを言うのだと説明されて、なるほどとようやく合点がいく。
「なわとびっていうのは分かったが、なんでそんなことをしてたんだよ」
「……最近美味しい物を食べ過ぎてたからだよ」
「それの何が悪いんだよ?」
秋は作物が豊富なのが当たり前で、花も毎日喜んで食べていたと思うも、「それだよ」と眉が八の字に下がる。
「毎日美味しい物が沢山並ぶからついつい食べ過ぎて…………太ったの」
「…………は?」
「だから、陰干しのついでに制服を着てみたら太ってたの!」
うわんと泣く花を茫然と見る。
仲謀の目から見て変わりはないが、花がこれほど気にするのだから本当なんだろう。
「そのえあなんたらよりいいのがあるじゃねえか」
「なに!?」
藁にもすがる気迫で見上げる花に、室内に置かれた模造刀を取るとほらと手渡す。
「剣舞、前に教えてやったろ? お前、あれきりやらないし、ちょうどいいじゃねえか」
「え!? 剣舞?」
「ようは身体を動かせればいいんだろ? 楽も教養の一つだからな。俺様が教えてやるよ」
「別にエア縄跳びでもいいんだけど……」
「やるよな?」
「…………わかったよ」
譲らない仲謀に諦めた花は、模造刀を構えると記憶を探る。
「そうじゃなくてこうだ」
「こう?」
「そうじゃねえ! ……って全然覚えてねえのかよ!?」
「ご、ごめん」
以前やらされた時も強引に決められ渋々だったために、お披露目が済んでからは全くやっていなかった。
「仕方ねえ。忙しい俺様が教えてやるんだ。一度で覚えろよ」
無茶な要求に、しかしもとはといえば自分のせいと思うと文句も言えず、剣舞のレッスンは毎晩続いたのだった。
2018/10/28