ハプニングキスの夜

仲花1

仲謀とキスをした。
正確には『キスされた』だけど、それでも嫌だと思わなかったことに今さらながら驚いた。
それまで仲謀を好きだとか、そういうふうに感じたことはなかったから。

それでも今回のキスも、その前に大喬小喬の悪戯でぶつかった拍子に唇が触れてしまったことも、仲謀なら嫌じゃないとそう思ったから、きっと無自覚に淡い恋心といえるような想いはあったのだと思う。

(ああ、なんだかすごい恥ずかしい……)

抱きしめる仲謀の腕は、無意識に逃げそうになる花を容易く押さえ込めるほど強くて、玄徳や公瑾に比べて華奢なようでもやっぱり男の人なんだと改めて思った。
過去で足を挫いた花を背負い、走るその速度に意外とたくましいのだと思ったのだけれど。

(仲謀のこと、好き……なのかな)

唇が触れたことを事故だと、そう仲謀に言われた時に感じた胸の痛み。
別の人ならしょうがないと思えたのに、仲謀にそう言われるのは耐えられなかった。

今まで誰かと付き合ったことはなく、当然キスの経験などあるはずもない。
ファーストキスはこんなふうに、などと夢見ていたわけではないけれど、やはり想いを通わせあって自然とするのだと、漠然と思っていた。

事故。事故といえば確かにそうだ。
仲謀に想いを告げられていたわけでもなく、花が仲謀を好きだと思っていたわけでもないのだから。
大喬小喬や尚香が何を思ってあのような悪戯をしたのかはわからないけど、当人達には思いがけないアクシデントだった。だけど。

「仲謀が本を利用するために自分を傍に置きたがってるって、そう思うのが辛かったってことはやっぱり好き、だったんだよね……」

お前はどうなんだと問われて、同じく好きとは返せなかった。
だって、あまりにも突然すぎて、自分の気持ちなどわからなかった。

好きか嫌いかで問われれば嫌いではない。
文句ばかりで偉そうで強引だけれど、本当は優しい人だってことを知っていたから。
それでも好きだと言われて、キスをして。
あまりに急に進んだ関係に、ただただ気恥ずかしさと戸惑いが花を寝台の上で悶えさせる。

『さっきの、やり直しさせろ』

耳によみがえった声と共に脳内に思い出された二度目のキス。
頬に触れた仲謀の指も、抱きしめる腕の強さも、包み込むそのぬくもりまでも思い出してしまって、声にならない奇声を心の中で叫びながらゴロゴロと寝台を転がりまわる。

「無理……絶対今日は寝れないよ……」

あの後、仲謀と何を話したかも覚えていないほど、花は混乱していた。

(だってファーストキスだよ? いや、二度目だからセカンドキス? いやいや、一度目は事故だし……あ~う~)

二度目のキスは一瞬だったのか、短かったのか長かったのかも覚えていない。
一瞬にして真っ白になってしまったから。
どくんどくんと、一向に収まる気配のない忙しない鼓動に、花は一晩中寝台を転がりまわった。 もちろんそれは仲謀も同じだったことを花は知らない。
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