限界

春芽12

「しゅ、春草さん……っ、これ以上は、勘弁してください……っ」

降り落ちてきた口づけを受け止めて、軽く触れて終わると思ったそれは、けれども二度、三度と繰り返されて、気づけば壁際に寄りかかるほど追い詰められていて、さらに続けられようとした彼の唇を思わず手で防いでしまう。
だって、なんだか身体が熱くて、頭もぼうっとして働かなくなって、このまま身を委ねてしまったらと、そんなことを考えた――瞬間、正気に戻る。
ここは春草さんの部屋で、今は二人きりで、勝手に入ってくる人もいないはずだけれど、いつ鴎外さんが戸を叩くかもしれないのだ。

「この手はなに。口づけ出来ないんだけど」
「だ、だからもう……」
「俺に触れられるのは嫌なの?」
「嫌じゃないです、けど」

嫌じゃない。触れられて嬉しいと思ってる。
でも、なんだかおかしくなってしまうのに戸惑って、つい拒否してしまうとムッと春草さんの眉が潜められて。
――ベロ。

「ひゃあ!」

手のひらに感じた濡れた感触に驚き、飛び退くと、わなわなと震える。

「しゅ、春草、さん、い、今……手……っ」
「君が手を退けてくれないから」

だからって舐めますか!?と、叫びたいのに声にならなくて、顔を真っ赤に染めるとニヤリと彼が笑みを浮かべて。見覚えのあるその表情に、けれどももう後ろに逃げ道はない。

「君が手の方がいいって言うなら構わないけど、どうする?」
「な、な、な、な……っ」

私の手を取り、微笑むその姿は艶然としていて。震える指を引きたいのに、絡めとられて逃げられなくて。
タイムリミットとばかりに距離を縮められて、再び重なった唇はなかなか離れてはくれなかった。

20190611
Index Menu ←Back Next→