たこ焼き騒動

チャリ芽

家族が皆出かけていたので、ご飯は簡単なものでいいやと店番しながら考えていたら、突如後ろから声が上がる。

「芽衣ちゃん、たこ焼き作ろうよ!」
「たこ焼き? たこ焼き器なんて家にあったかな」
「じゃーん! 用意はバッチリだよ☆」

たこ焼き器はもちろん、具材もテーブルに並んでいて、すでに用意万端な様子に苦笑しながら店を閉めると、チャーリーに向き直る。
いつの間にか朧ノ刻になっていたらしい。
明治の世からこちらに帰ってきて、こうして一日のわずかな時間を彼と過ごすことは芽衣の楽しみになった。
物の怪である彼が姿を見せられるのは、朧ノ刻の日没から明け方まで。
いつでも一緒にいることは叶わないが、それでも芽衣は幸せだった。

「ねえ、チャーリーさん。何か変な食材があるんだけど」
「え?」

タコはもちろん、チーズやお餅、チョコもありとして……何故わさびがあるのか。

「たこ焼きと言ったらロシアンルーレットはお約束だよ、芽衣ちゃん」
「いや、そんなお約束ないから」

ざっくり言葉を切るも、ほらほらと促されて生地を流し込むと、ポイポイと具材を入れられ慌てて丸めるーーが。

「ちょ……チャーリーさんっ!」
「ほらほら、早くしないと丸くならないよ」
「変な食材入れないでよ!」

タコ、チーズ、お餅とランダムに入る中で、目敏く芽衣はわさびやチョコも投下されたのを見逃さなかった。
さらには焼けたものをポイポイと皿に移されてはもうどれがわさび入りかもわからなくなって、否応なしにたこ焼きロシアンルーレットに持ち込まれた。

「始めは芽衣ちゃんからいく? ハズレに当たったら罰ゲームに踏んでくれてもいいよ!」
「それ、チャーリーさんには罰ゲームじゃないから」

何故かM気のあるチャーリーに頬をひきつらせると、恐る恐るたこ焼きを取る。
食べ物を残すと言う選択肢が彼女に存在しない以上、たとえわさびが入っていようと食べるしかなかった。

「どう? どう?」
「チーズです。次はチャーリーさんだよ」
「ん~僕はタコでした!」
「チッ」
「芽衣ちゃん舌打ち!」

一回戦目は互いにまともな食材に当たり、二回戦目に突入。

「美味しい~」
「僕はチョコ」

二回戦目もハズレに当たらず、どんどん狭まる選択肢に緊張感が高まる。
チーズ、タコ、お餅、タコ、チーズ、チョコとここまでは美味しいたこ焼きに当たったが、当然腹がこの程度の量で満たされるはずもない。
だが次を作るにはわさび入りを食べるしかなく、つい普段よりも口を開くのが遅くなるーーが。

「勝者には高級神戸牛のステーキをあげちゃうよ☆」
「!!!!」

おもむろに取り出された牛肉に俄然とやる気がみなぎって、猛然とたこ焼きに向かう。
残りの量からもうそろそろわさび入りに当たってもおかしくないはず、と思いながら食べ進めて、ついに最後の一個を口にして首を傾げる。

「あれ?」
「どうしたの?」
「チャーリーさん、さっきわさび入れたよね?」

なのに全て食べてもわさびに当たらなかったのは何故か?

「もしかしてチャーリーさん、嘘ついてたの!?」

自分が食べたものにわさび入りがなかったのなら、当然それはチャーリーが食べたことになる。
ムッと睨むと顔を紅潮させて震えて喜ぶのに毒気を抜かれると、サッと一つのたこ焼きが取り出される。

「嘘かどうか確かめてみる?」

全て食べたはずなのに一つ残るたこ焼きが意味するのは。
そう思いながらも食べ残す選択肢を選べずに頬張ると、ピリッとした刺激が舌に伝わる。
しかもあろうことかチョコとの組み合わせだ。
桃介に知られたら怒りそうだと、懐かしい人を思い起こすと芳ばしい薫りがして、ぐるんと体ごと向きを変えてにおいの元を見る。
じゅうじゅうと美味しそうに煙を上げる愛しい存在に、口の中があっという間に涎が溢れてくる。

「当たりの芽衣ちゃんにはご褒美に高級神戸牛ステーキだよ」

はい、あーんと差し出され、パカッと反射的に口を開けて愛しき牛肉を味わう。
高級神戸牛が蕩けていく様に顔を蕩けさせると、再び一切れ差し出されてパクリと食むと幸せが満ちる。
そうして気づけば全ての神戸牛を平らげていて、ご機嫌に笑みをこぼすと、チャーリーの柔らかい視線に気がついた。

「チャーリーさん?」

食べたかったの?と視線の意味を問うと、たこ焼きを差し出されて反射で食む。

「!!?」
「油断大敵だよ芽衣ちゃん☆」

一口で神戸牛の味を消し去ったわさびの辛味に全身を震わすと、なになに?と嬉しそうに覗きこむチャーリーを睨んで。
お望み通りに足蹴にすると、今日一番の気持ち悪い笑顔でくねるチャーリーに、彼とたこ焼きはすまいと心に誓うのだった。

12周年2021
Index Menu ←Back Next→