その花を渡すのは

ロクナナ6

花神祭り当日。
騎士団は王族の警備に駆り出されるため、国中が華やぐ中でいつも以上に厳戒態勢を敷き、巡回を行っていた。
騎士団第一小隊の隊長であるアルウェスももちろん仕事で、差し出される花を勤務中だからと断り歩いていると、見慣れた水色が視界に入る。
そしてその隣には、彼も見知ったハーレの男が、キュピレットの花を手に連れ添っていた。
それを認めた瞬間、ざわりと胸の奥がざわめく。
なぜヘルがリゲル・ヤックリンと一緒にいるんだ?と考えるより早く、足は二人のもとへ向かっていた。
ついにヘルにも逢瀬の相手が出来たのかと、いつものように戯れば、ゲエッ!と失礼な声が返された。
会話しながら先程感じた違和を見逃さず、靴を見る振りをしながら屈みこんで触れると、気づかれないように治癒魔法を使う。
普段と変わらない服装、けれども靴だけは履き下ろされたばかりの、しかも貴族も愛用するアマルビィの靴屋のもので、靴擦れをしてまでリゲル・ヤックリンの為にめかしこんだのだと思えばまた胸がざわめいた。
他愛もない内容を交わしていると、リゲル・ヤックリンに胸元のキュピレットを問われ答えて、逆に二人へ質問を返す。
自分が持つキュピレットの花は、祭りを楽しむことのできない騎士への陛下の気遣いだが、リゲル・ヤックリンとヘルが手にしたそれは、この後の花渡しの為なのか。
その答えを聞きたくなくて、仕事を理由にその場を離れる。
去り際にかけた言葉は棘を孕んだものになってしまい、その後もずっと胸の中で二人の姿がしこりのように重く残り、意識して力を抜かなければ眉が寄ってしまうほどだった。
ヘルが誰かのものになる。
いずれはそうなることが必然だと、そう考えていた。
なのに感情を揺らす自分に歯噛みする。
彼女は決して自分を求めないし、自分も求めてはならないのだ。
だから意識的に感情を奥へ押し込むと、意識を仕事に切り替える。
けれども、いつまでもヘルの手にしたキュピレットの花が頭から離れなかった。

20201223

→その後のナナリーとゾゾを読む
Index Menu