「いい人ですよね。さりげなく気遣ってくれるし」

花神祭にヤックリンさんと出かけたことを知っているゾゾさんからどうだったかを問われて、当日を思い出して答える。
あの日はその後の出来事の方が色々と衝撃があったために、どうしても彼と出かけたことについての記憶は印象が薄い。
何せ生まれて初めてペストクライブを起こしてしまったのだから。

「あああぁぁ~」

思い出すだけでも恥ずかしく、叶うならば皆の記憶から抹殺したい。
アイツが原因なのも腹立たしいが、守られていたことにも気づかなかった己の不甲斐なさが何より許せなかった。
頭を抱えていると小さなため息が聞こえて、視線を向けるとゾゾさんが肩をすくめる。

「まあ、始めから勝ち目なかったんだから仕方ないわよね」
「??」

謎の言葉に首を傾げれば、あなたは知らなくていいのよと肩を叩かれた。
そもそも何の話をしていたのかと考えて、そう言えばと思い出す。

「ゾゾさんはどうだったんですか?」
「内緒」

メラキッソ様に逆らうと言っていたのに、何故か所長達とハーレに居たことを問うも、やはり教えてはくれないらしい。
玉砕したわけではないらしいが……言いたくないなら仕方ない。

そんなナナリーの様子を見ながら、ゾゾは遠い地の同僚を思い返していた。
男日照りと花神祭が近い故に、女性からのアプローチが絶えず困っていたヤックリン。
モテればいいというわけでもないようで、ならば一時だけでもと噂を流すことで緩和してあげたのだが、そんな中で彼は何故かナナリーを花神祭に誘ったのである。
ナナリーは見目もいいし、勤勉で礼儀正しく、ヤックリンが好感をもつのも頷けるが、まさか一月の間にと驚きと、あと二日で帰ることを考えると手助けもしてあげたくなった。
ならばと背を押すと、迷っていたナナリーも最終的には了承した。
ヤックリンのあけすけではない誘い方も良かったのだろう。
けれども、こうして感想を聞いてみれば、ナナリーの反応は芳しくなく、さらに当日のことを聞けば、やはりというか隊長さんと遭遇したらしい。
ナナリーと第一小隊の隊長さんは恐ろしく縁があり、顔を合わせる度に子どもじみた遣り取りを繰り返していた。
ナナリーは一見毛嫌いしているように見えるが、彼にだけは毛を逆立てるがごとく噛みつく様は、ただの負けず嫌いというには過剰すぎる反応で、それほど意識していると言えた。
そして隊長さんの方も、まんざらでもないのだろうとゾゾは感じていた。
恋情と呼べるのかは不明だが、この二人の間に入るのはやはりヤックリンには難しいだろう。
誘い方もスマートなら、引き際もスマートだった同僚に感心しつつ、ナナリーを食事へと誘うのだった。

20210102
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