「俺は今まで互いの想いが通じ合っていれば、それでよいと思っていた」
それは祝言を挙げ、晴れて夫婦となった夜のこと。
とつとつと話し始めた斎藤に、千鶴は黙って耳を傾けた。
「千鶴。お前は今まで幾度となく俺に想いを伝えてくれたな」
「はい」
「もしかするとこのようなことはわかっているかも知れんが、それでもやはり今、お前に伝えるべきだと判断した」
「はい」
相変わらずの回りくどい言い回しに、その意を汲みとろうと言葉を咀嚼しながら頷く千鶴をじっと見つめて、惑うように目を伏せた。
「……素面でいうのはやはり勇気がいるな」
「もう一杯呑みます?」
「いや、どうせ今日は酔えん」
いくらかの逡巡の後、居住まいを正すと、決意を新たに向き直った。
「俺には女を喜ばせる物言いなどわからぬ。
だが、お前に言わせてばかりいるのは、男として人情を心得ない。……千鶴。お前を愛している。これから先、俺は喜びも悲しみも全てをお前と共にしたいと思う」
「………っ!」
思いがけない告白に、言葉が出ない。
斎藤が口下手であることは知っていたし、想いは通じ合っていると信じられたから、今まで言葉を求めはしなかった。
その斎藤から愛していると――はっきりと想いを告げられたのは、これが初めてだった。
「………嫌か?」
「違うんです。嫌なんじゃないんです……。嬉しくて……」
沈黙を違う意味に捉えた斎藤に、緩く首を振ると、千鶴は涙の浮かんだ瞳でまっすぐに見つめ返した。
「私もあなたと同じものを感じ、歩いていきたい。……一さんのお傍にいさせてください」
それは会津で土方達と別れ、斎藤についていくと決めた時と同じもの。
想いを瞳に宿した千鶴の答えに、嬉しそうに微笑むと握った手に力がこもる。
媒酌人もいない、二人だけの祝言だが、それでも曖昧だった関係が『夫婦』という形を得たこと。
それは、大きな喜びを二人に与えた。