永遠につながる

斎千14

【注意】
千鶴の死から始まる転生話となっています。
死ネタ・転生が苦手な方は読み進めるのをおやめください。




「……そんな顔……しないでください……」

泣き出しそうな顔で傍らに座る夫に、千鶴は柔らかく微笑む。
戦乱の世を駆け抜けて、厳しい斗南での生活も共に支え、助け合ってきた。
子宝にも恵まれ、かつての仲間にも再会し、幸せな日々を過ごしてきた。
十分すぎるほど幸せだった人生。

「また……きっとめぐりあえます」

御陵衛士として袂を分かった時も、謹慎を命じられた時も、千鶴のはじめへの想いは揺らぐことがなかった。
だから今、一時分かたれたとしても、もう一度出会える……そう信じることができた。

「この身体がなくなっても、ずっと、私ははじめさんを想っています……」

「…………っ」

「必ずまた……出会える……から……」

時が過ぎても、この想いは変わらない。
永遠に続いていくから。

「……はじめさんを……愛して……ます」

薄れる意識に、聞こえる嘆き。
どうか泣かないでください。
今一時の別れだけ。
私は必ず、あなたと出会うから。
必ず――出会うから。

 * *

桜を見つめていた千鶴は、呼び声に振り返るとふわりと微笑んだ。

「はじめさん」
「待たせてしまったか?」
「いいえ。私もついさっき、来たばかりです」
「そうか」
ほっと表情を和らげた斎藤。
今日は久しぶりのデートで、千鶴は桜の咲く河川敷で待ち合わせていた。

「桜を見ていると懐かしくて、泣きたくなるような……でも幸せな気持ちになるんです」
「そうだな」
簡潔な同意。
それでも、それを不満に思うことはなく、差し出された手を取って、二人桜並木を歩く。

「ドレス、本当に私だけで決めてしまっていいんですか? はじめさんのタキシードを選ぶのに、色がわからないと困ると思うんです」

「いや、千鶴に任せる。俺は……当日の楽しみにとっておく」

今、千鶴のドレス姿を見たら、結婚式当日まで待ちきれなくなってしまう。
そういって、斎藤は頑なにドレス選びに付き合うことを拒否していた。
千鶴としては一生に一度の晴れ舞台なのだから、二人でじっくり選びたいと思うのだが、そういう斎藤の言葉も嬉しく思って受け入れてしまった。

「マーメイドも捨て難くて迷ってるんです。
でも、お千ちゃんはAラインの方がいいって言って……」

「マー……メイド? A……ライン? ……すまない、俺には理解できないようだ」

「ドレスの形です。一般的なのがAラインで、
マーメイドは人魚のように裾が細身のドレスなんです」

「そうなのか」

「はじめさんはどちらがいいと思いますか?」

「……俺はどちらも千鶴に似合うと思う」

「それじゃどちらも選べません」

「す、すまない」

頬を膨らませて見せれば、慌てる姿が可愛くて、千鶴は嘘です、と微笑んだ。

「はじめさんに綺麗だって言ってもらえるように、頑張って選びますね」
「千鶴は今でも綺麗だろう」
「え?」
「い、いや……」
斎藤は時々素でこうした言葉を投げかけるから、油断していた千鶴は一瞬で真っ赤になってしまった。

「あ、ありがとうございます……はじめさんもかっこいい、です」
「そ、そうか」

二人で照れているのがおかしくて、顔を見合わせ笑ってしまう。
幸せな時間。
愛しい時間。
斎藤と共にいる時間は、こんなにも愛しいから。

「愛しています」

素直な想いを口にすると、腕を引かれて。
重なった唇に、俺もだ、と優しい囁きが聞こえた。
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