口づけがその答え

斎千10

「ん……」
長い口づけの後、唇を放した千鶴は、ふと思い出したことを斉藤にぶつけてみた。

「ねぇ、一さん」
「なんだ?」
「以前血を吸った時、様子がおかしかったことがありましたよね」
千鶴の言葉に、斉藤がふいと顔を逸らす。

「一さん?」
「……あれは」
千鶴の問いに、口ごもっていた斉藤は、しかし言い逃れは出来ないと諦めたか、目を伏せぼそりと呟いた。

「あれは……離れがたかっただけだ」
「え?」
思いがけない返答に、千鶴がぱちぱちと瞳を瞬く。
その反応に、目尻を朱に染めると、斉藤はそれ以上言葉を紡ぐことを拒絶する。

「それって……」
恋にはとんと疎い千鶴でも思い至った、斉藤の想い。
それは、彼と想いを交わし、こうして共にあるからこそ分かった事実だった。

「あの頃には私を女としてみてくれていたのですか?」
「……俺は始めからあんたを女と認識していた」
「いえ、そういう意味じゃなくて……」

――私のこと、恋愛対象としてみていてくれてたんですか?
そう問おうとした言葉は、しかし引き寄せられ、重ねられた唇に封じられた。
それ以上は言わせない……そう告げる口づけに、千鶴はずるいですと内心で愚痴る。
それでも、想いを募らせていたのは自分ばかりだと思っていたので、思わぬ事実はほんのりと千鶴の胸を温めた。

「……いつまでも笑っていると、ずっとこのままだぞ」
バツが悪いのか、半分脅しのような言葉も、しかし千鶴には喜びしか与えない。

「いいですよ。一さんがそう望むなら」
目を瞠った斉藤に、今度は千鶴から口づけるのだった。
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