たとえ咎であったとしても

沖千12

引き裂かれる痛みに思わず目をつむって。一瞬の後に、ゆっくり開くと映った総司の顔。
今にも泣きだしそうな、痛みを堪えるその表情は、初めて男をその身に受け入れた千鶴よりももっと辛そうで、固く握りしめていた布団から手を離すと、そっと指を伸ばした。

「千鶴?」
「……そんな顔、しないでください。私は総司さんと結ばれて、嬉しいです」
「……君って本当に馬鹿だよね」

泣き笑いを浮かべての馬鹿の言葉は、けれどもとても優しく響いて、千鶴は微笑むと労わるようにその頬を撫でた。
総司はこうして千鶴と肉体的にも結ばれることをずっと躊躇っていた。
不治の病と言われる労咳を患い、羅刹になったことでさらにその命は削られ、いつ儚くなってもおかしくなかったからだ。
そう遠くなく、千鶴を一人残して逝くだろう総司と共にいることは、千鶴の胸に大きな傷を残すことになる。
それがわかっていても、彼女を手放すことは出来なくて。

愛しているのに触れられない。
愛しているのに、離せない。
表面に出すことはなくとも、ずっと総司は葛藤していた。
そんな総司の胸を押したのは、他の誰でもない千鶴自身。
一生消えない傷を負っても、それでも総司を許すと、彼女を求めることを許してくれた。
それでも今、確かな傷を千鶴に与えたことを自覚した瞬間、抱いたのは後悔。
彼女のことが好きで、彼女以外いらないと思うほど大切で――だからこそ、罪を犯した。

「総司さん、泣かないでください」
「僕が泣くわけないでしょ?」
「泣いています。……ここで」
「…………っ」
胸に触れた手のひらに、びくりと身体が震える。

「後悔なんてしないでください。総司さんは私に女としての喜びをくださったのですから」

愛する男に求められて、その身を捧げる。それはなんて幸せなことなのだろう。
そのことを、千鶴は総司に教えてもらった。

「愛してます」
微笑みながら伝えられた想いは、罪の意識に押し潰されそうになっていた総司をすくいあげる。

「本当に……馬鹿だね…」
「馬鹿でもいいです。総司さんと一緒にいられるなら」
どこまでも優しくて、こんな汚い自分が共にいるのが不思議なほど彼女は清純で。
惜しみなくそそがれる慈愛に、涙が溢れそうになる。

「僕も愛してるよ」

伝えることに躊躇って、それでも少しでも彼女の想いに応えたくて、痛みを訴える胸の奥から真実の言葉を引き出し伝える。
愛している。誰よりも、何よりも。
総司が存在する意味は、彼女の存在ただそれ故。
千鶴が求めてくれるからこそ、総司はここにいるのだから。

許しの言葉を降り注ぎながら、揺さぶられて、総司を受け入れる千鶴。
そんな幸せな痛みを抱きながら、総司はその身を穿つ。
愛しいから。
愛してるから。
一生消えることのない罪を負い、また一生消えることのない千鶴への想いをその胸に抱いた。
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