磁力のように惹かれてく

土千5

眠る千鶴を見つめながら、土方は深くため息をついた。
この蝦夷地が最後の戦場になるだろうと思っていた。
だからこそ、千鶴を同行させずに仙台に置いていった。なのに――。

「俺は何やってんだ……」

存在を失って、初めて知った。
知らず自分が千鶴に支えられていたことを。
彼女の存在に救われていたのだということを。
自分には千鶴が必要であり、そして―――愛おしいのだと。

千鶴が新選組にやってきて5年。
偶然居合わせただけの、まだ年端もいかない小娘を死なすのも忍びなくて、処分に困り屯所に置いていただけだったが、いつしか彼女は新選組の一員となっていた。
逃げもせず、新選組を慈しみ、共に歩んできた千鶴。
守るべき存在である彼女が、追い返そうとした自分に向かって怒鳴り返してきた時には、虚を突かれたものだった。

「俺はお前に幸せになって欲しいんだよ……」

偽ざる本音を口にして、小さな額を覆う黒髪を撫でる。
自分を慕ってくれる、千鶴の想いは嬉しい。
だが、こうして溢れ出た想いを止められずに抱いてしまってもなお、手元に置くことを躊躇わずにはいられなかった。

「お前は言い出したら聞かねえからなぁ」
凛とした強さを秘めた少女は、こうと決めた事は頑として聞き入れなかった。

「まったく……俺らしくねぇ」
うだうだと悩むのは性にあわない。
いつでも決断は速やかにしていた。
なのに、どうしても千鶴のことだけは心揺らさずにはいられなかった。

「この俺を振り回すことが出来るなんざ、お前ぐらいのもんだ」

鬼の副長と恐れられていた土方を、かように惑わす娘。
理性は告げる――再び手放すべきだと。
しかし、心はそれを激しく拒絶していた。
少女の柔らかな髪を弄びながら、土方は一人闇に包まれた窓の外を見る。
雪深い箱館の地に、煌々とした月が浮かんでいた。
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