「Trick or treat?」
おずおずと問いかけられた問いに、土方は眉間にしわを寄せると苛立ったように千鶴を見る。
「……なんでお前までそんな恰好してんだ?」
「その、近藤先生と山南先生に言われたんです……」
土方の怒りを受け、上目遣いに窺う千鶴の頭にのっているのは、いわく魔女の帽子と呼ばれるもの。
学園生活をより楽しいものにしようと近藤がハロウィンを企画した時に、土方はそんなちゃらけたものをと真っ先に反対したのだが、お祭り好きの永倉や原田の賛成に押し切られて今日を迎えていた。
仕方なしに仮装は公序良俗に反しない学生らしいものを、校内に菓子を持ち込むことは了承できないので、源さんの協力のもとに一日限定で作ってもらった学年ごとに異なる学食のハロウィン限定スイーツ券の交換を可能にすることで妥協していた。
「山南さん……」
近藤はともかく山南が面白がって千鶴を唆したのは確実で、土方はため息をつくとこっちに来いと教科担当室へ連れていく。
「土方先生? あの……」
「ほらよ。不本意とはいえ、近藤さんが決めたことだからな。源さんも張り切ってたし、せっかくだ。たんと食え」
「でも、これは土方先生にと近藤先生が下さったものですよね?」
「甘いものに興味はねえよ」
「でも……」
渋る千鶴に舌打つと、ズボンのポケットを探って100円玉を取り出して千鶴の手に握らせる。
「じゃあこれで買え。これなら文句ないだろうが」
「あります! 金銭授与は規則違反です」
「うるせえ。ハロウィンと言えば甘いものだろうが。それにこれは教師間でやるもんじゃねえ、恋人にやるもんだ。文句は言わせねえ」
「で、でも……」
「学食券を受け取らないなら、権利を与えるしかねえだろ」
「だったら自分で……」
「決まり文句を言ってきたのは誰だ?」
土方の言葉にウッと詰まると、手のひらの100円玉と土方を見ておずおず受け取る。
「……わかりました。ありがとうございます」
「おう。他の奴らには黙っておけよ? 新八にたかられたらたまったもんじゃねえからな」
「永倉先生には赤券を差し上げました。ご自身の緑券と、山南先生から青券をいただいたようなので、すべて揃ったと思いますよ?」
「あのバカ……ったく」
ギャンブルと酒に費やして常に金欠である永倉にとっては大事な食糧になるのだろう。
張り切って校内を走り回っている姿が浮かんで顔をしかめると、ふふっと千鶴が微笑む。
「せっかくだから土方先生も私と交換しませんか? 源さんも今日のために張り切っていましたし、きっと美味しいと思いますよ?」
千鶴の提案に一瞬、あーんと匙を交わし合っている姿が浮かんで、己の考えに頭を抱え込んだ土方を千鶴が不思議そうに見つめていた。
2018ハロウィン企画