それは華のように

原千6

ぱん、ぱん、と洗濯物を伸ばして干す。
晴れた空の下、本日の洗濯物を干し終えた千鶴は、節々をほぐすように腕を伸ばすと空を仰いだ。
日本を離れ、この異国の地にやってきて数ヶ月。
見知らぬ土地での生活に、しかし不安はなかった。
千鶴の隣には原田がいたから。

「千鶴?」

不意の呼びかけにそっと目を開けると、大好きな人を振り返る。
贅沢な望みだと、諦めようとしていた平穏で幸せに包まれた日々。
その望みは確かに今、暖かく包み込んでくれていた。

「どうした?」
黙したまま微笑む千鶴を、歩み寄った原田が気遣うように覗き込む。

「いいえ。幸せだなって、そう思ったんです」
「そうだな」
緩く首を振り、心に浮かんだ想いをそのまま口にすると、優しい笑みが返ってきて、太い腕がそっと身体を抱き寄せた。

瞼を閉じると蘇る、大切な人たち。
局長だった近藤は処刑され、新政府との戦いで土方や斉藤達も命を落としたと、のちに風の便りで知った。
その事実は、胸にいくつもの棘を突き刺したけれど、あの人達は確かに生きていたのだと胸に焼きついていた。
二人にとって新選組は仲間であり、愛しい人達だった。
だから、悲しみ泣くのではなく、微笑んで語りたい。
あの大好きな人達のことを。

「今度、お花見をしましょう」
この身を包む温もりにそっと手を沿え微笑むと、それだけで全てを察してくれた原田が目元を綻ばせた。

「ああ。みんな、花見が好きだからな」

空を仰ぎ見た彼の瞳にもきっと、千鶴の心の中と同じく彼らの姿が映っているのだろう。
手と手を合わせ、互いの温もりを感じながら心も重ねる。
誰よりも愛しいあなたと。
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