突然目をつむるあかねに、頼久は困惑気に彼女を見つめた。
――あかね殿は何を考えているのだろう?
超鈍感な頼久は、それがあかねの“キスして”のサインとは気づかず、ただきょとんと彼女の行動を眺めていた。
焦れたあかねが瞳を開けると、呆然と立ち尽くす頼久に怒りがこみ上げてくる。
「どうしてキスしてくれないんですか!?」
「キ、キスとはなんでしょうか?」
「口づけのことです! 私のこと、嫌いなんですか!?」
「そんなわけありません!」
「じゃあどうしてしてくれないんですか!? 私、そんなに魅力ないですか!?」
言うや瞳に大粒の涙を浮かべると、あかねは走り去って行ってしまう。
茫然としていた頼久は、はっと我に返ると、慌ててあかねの後を追う。
頼久の方が大きく、どんなにあかねが必死に走ろうとも、あっという間に追いつかれてしまった。
腕を掴まれ制止させられると、あかねは涙を浮かべた瞳に怒りをたたえて振り返った。
「頼久さんにとって、私は今でも神子なんですか? 女としては見てくれないんですか?」
「そんなことはありません。あかね殿は私にとってとても大切な女性です」
「じゃあなんでキスもしてくれないんですか?」
始めの質問に戻ってしまい、頼久がまた口ごもる。
そんな頼久に、あかねの瞳から涙が零れ落ちていく。
「あ、あかね殿……」
「私、頼久さんのこと本当に好きだから……だから触れて欲しくて、それでお願いしたのに……」
あかねにとってもそれはファーストキスであり、勇気を振り絞っての行動だった。
「……頼久さんのばか! もういいです!」
悲しくていたたまれなくて、今すぐこの場から走り去ってしまいたいのに、頼久の腕を振りほどくことができず、あかねはぼろぼろ涙を落とす。
「あかね殿……」
「離して!」
「私はあかね殿が好きです。一人の……女性として愛しています」
頼久の言葉に、あかねが驚いて顔をあげる。
それは初めて頼久が「愛してる」と言ってくれた瞬間だった。
「頼久さん……」
「私が至らぬために、そのように涙を流させてしまい、本当に申し訳ありません。でも、私があかね殿を愛しているのは本当です。あなたは私にとってかけがえのない女性なのです」
そう言うと、そっとあかねの唇を奪う。
「頼久さん……!」
「このようなことをするとあかね殿が怯えてしまうのではと思い、せずにおりました。私の思慮が足らず、本当に申し訳ありませんでした」
「私、頼久さんに触れられて怖いことなんてないですよ? だって頼久さんのこと、本当に好きなんですから」
「……はい」
あかねに笑顔が戻ると、頼久はもう一度口づけた。