木蓮

友あか1

「うわぁ……!」
友雅に連れられ、禅林寺にやってきたあかねは、華やかな白木蓮に感嘆の声を上げた。

「すごい! これ、木蓮ですよね?」
「白雪のお気に召したようで何よりだよ」
上向きに膨らんだ白い花と、鼻に届く芳香に、春の訪れを感じる。

「木蓮は友雅さんも好きなんですよね?」
まだ藤姫の屋敷で世話になっていた頃、物忌みの文に木蓮の花を添えたところ、友雅が喜んでくれたことをあかねは覚えていた。

「そうだね。凛と咲き誇る壮麗さと芳しい香りが女性のようで好ましいね」
「……そんな理由で好きだったんですか?」

じとりと目を細めて見つめれば、くっくっと揺れる肩にからかわれたことがわかり、あかねはぷうっと頬を膨らませた。

「戯言が過ぎたようだね。機嫌を直してはくれまいか」

「……あとで浮気はしないって誓ってくれたら許します」

「そんなことでいいならば今すぐにでも誓おう」

すっとあかねの手を取ると、優雅に唇を寄せる友雅に、あかねは慌てて手を引いた。

「あ、あとでです!」
「おやおや。私の奥方は奥ゆかしいね」

顔を赤らめ慌てる様が愛しくて、友雅は微笑を浮かべると木蓮に視線を移した。

「友雅さんみたいですよね」
「私は君にこそ似合うと思うがね」

穢れのない清らかさと、凛とした美しさを併せ持つ木蓮。
それは龍神の神子として己の身を差し出し、この京の都を守ったあかねそのもの。

「私はこんなに華やかじゃないです。絶対友雅さんの方が似合います」

常々自分の外見の幼さが気になっているあかねの言い分に、ふっと笑みを浮かべると手近な枝から木蓮を取って、あかねの髪に飾る。

「君はこの蕾と同じ。これから美しく咲き誇る花なのだよ」

そう。まだ大輪の花を咲かせていなくとも、その芳しい香りは傍にいるものを惹き寄せ魅了するのだから。

「だから私の傍に……君に水を与え育むのは私でありたいからね」
するりと髪を弄べば赤らんだ頬。

「私が傍にいたいのは友雅さんだけです」
そっと袖を引く手が愛しくて、身を傾くと瑞々しい唇に口づけた。
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