「うわぁ……!」
友雅に連れられ、禅林寺にやってきたあかねは、華やかな白木蓮に感嘆の声を上げた。
「すごい! これ、木蓮ですよね?」
「白雪のお気に召したようで何よりだよ」
上向きに膨らんだ白い花と、鼻に届く芳香に、春の訪れを感じる。
「木蓮は友雅さんも好きなんですよね?」
まだ藤姫の屋敷で世話になっていた頃、物忌みの文に木蓮の花を添えたところ、友雅が喜んでくれたことをあかねは覚えていた。
「そうだね。凛と咲き誇る壮麗さと芳しい香りが女性のようで好ましいね」
「……そんな理由で好きだったんですか?」
じとりと目を細めて見つめれば、くっくっと揺れる肩にからかわれたことがわかり、あかねはぷうっと頬を膨らませた。
「戯言が過ぎたようだね。機嫌を直してはくれまいか」
「……あとで浮気はしないって誓ってくれたら許します」
「そんなことでいいならば今すぐにでも誓おう」
すっとあかねの手を取ると、優雅に唇を寄せる友雅に、あかねは慌てて手を引いた。
「あ、あとでです!」
「おやおや。私の奥方は奥ゆかしいね」
顔を赤らめ慌てる様が愛しくて、友雅は微笑を浮かべると木蓮に視線を移した。
「友雅さんみたいですよね」
「私は君にこそ似合うと思うがね」
穢れのない清らかさと、凛とした美しさを併せ持つ木蓮。
それは龍神の神子として己の身を差し出し、この京の都を守ったあかねそのもの。
「私はこんなに華やかじゃないです。絶対友雅さんの方が似合います」
常々自分の外見の幼さが気になっているあかねの言い分に、ふっと笑みを浮かべると手近な枝から木蓮を取って、あかねの髪に飾る。
「君はこの蕾と同じ。これから美しく咲き誇る花なのだよ」
そう。まだ大輪の花を咲かせていなくとも、その芳しい香りは傍にいるものを惹き寄せ魅了するのだから。
「だから私の傍に……君に水を与え育むのは私でありたいからね」
するりと髪を弄べば赤らんだ頬。
「私が傍にいたいのは友雅さんだけです」
そっと袖を引く手が愛しくて、身を傾くと瑞々しい唇に口づけた。