『でもそれって、瞬が欲しがったものと違うんじゃないか?』
都にそう指摘されてからずっと、ゆきは瞬に言われた言葉を考えていた。
ゆきが欲しいと、そう言った瞬。
だからゆきは、未来もずっと瞬と共にと、将来の誓いをたてたのだが。
(私、間違ってたの……?)
今年のバレンタインはゆきにとって今までとは違う意味を持っていた。
兄として共に育った瞬を恋人として見つめている今は。
「ゆき?」
呼びかけに顔をあげると、いつの間にか瞬が目の前にいた。
「どうかしたんですか? まさか具合が悪いんじゃ……」
「瞬兄……瞬兄がバレンタインに本当に欲しかったものは何?」
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
「……都に、瞬兄が本当に欲しかったものとは違うって言われたの」
ゆきの額に手を伸ばしかけていた瞬は、小さくため息をつくと目を伏せ答えた。
「俺は……俺の望んだ以上のものをあなたからもらいました」
「でも、瞬兄が私に欲しいといったものとは違うんでしょ?」
「…………俺はもう十分すぎるほど満たされています」
ゆきからの永久の愛の誓い――それに勝るものなどありはしない。
それでも、純粋に寄せられる愛情が嬉しくてつい口にしてしまったのだ。
――心の奥の浅ましい欲を。
「瞬兄はいつも私のお願いを聞いてくれるでしょう。だから私にできることなら叶えたい。瞬兄、本当の願いを教えて」
向けられる曇りない瞳に、瞬はしばらく思案した後、そっと耳元に囁いた。
「……あなたのすべてを」
「え?」
「この柔らかな髪も、微笑みも、すべてを俺のものにしてしまいたい。そんなただの我欲なんです」
ゆきはゆき自身のものである……それをわかっていてもなお求めてしまうのは、彼女の全てを独占したいという我が儘に過ぎないのだから。
「いいよ」
「ゆき……?」
「瞬兄が欲しいなら髪を切ってもいい。いつでも笑いかけるし、私の宝物もあげられる」
ゆきが何よりも大切で望むものは瞬だから。
どんな宝物よりも瞬がそばにいてくれること、その方が大切だから。
「……俺を甘やかさないでください。どんどん欲深くなりますよ」
「いいよ。瞬兄は今まで欲がなさすぎるぐらいだもの。それに……瞬兄が欲しいと思うものが私なのは嬉しいから」
「あなたは……」
どこまでも慈悲深い愛情に、瞬は困ったように微笑む。
「I want to make love with you.」
「…………え?」
「赤ずきんのお話は知っていますね。そんなに無防備に信頼を寄せるのは危険です」
驚き見上げたゆきに覆いかぶさるように口づけて、普段よりも少し深くその唇を食む。
「……少しは俺を男として意識してくれましたか?」
「そんなの……前からしてる」
家族として交わしていた頬へのキスが唇に変わった時から、瞬は誰よりも大切な……男の人。
そんなゆきの返答に、最高の微笑みを浮かべ。
もう一度、ゆっくりと唇が重なった。