「もう少し自分を持ったほうがいいぞ」
「お前には意思がないのか!」
感情がない。意思がない。
それは今までも何度となく言われてきた言葉。
自分には他の者が当たり前のように持つ感情というものがないのではないか?
そんな思いが、不意に口をついた時。
「総司さんにだって、感情はありますよ」
柔らかく微笑み、そう告げたゆき。
彼女を知りたい。
他者に関心を持ったのは、この時が初めてだった。
ゆきの悲鳴に、持ち場を離れて駆けつけた。
総司にとって、初めての命令違反。
さらに新選組の任務を投げ出してゆきの元へ行こうとした時、理由を問われ悟った想い。
八葉だからではなく、ただゆきに惹かれている。
だから傍に……ゆきを守りたい。
他の誰でもない、自分が。
紡がれてきた百の言葉。
様々な者たちの様々な真実を宿すそれらの中で、ただひとつ総司が見つけたもの。
顔を思い浮かべるだけで心が満たされる。
「総司さん」
自分に向けられた柔らかな微笑み。
「総司さん」
自分の名を呼ぶ甘やかな声。
「総司さん……」
優しく触れる指。
数ある物の中で何よりも清浄で、綺麗なもの。
それが彼女……蓮水ゆき。
総司の世界に優しく色を与える存在。
「僕にとって真実は……ゆきさん、あなたです」
彼女の与えるものすべてが心地良く、この胸を震わせるから。
百の真実の中の……唯一は彼女。