「当機はまもなく着陸態勢に入ります。どうぞみなさま、今一度安全ベルトをお確かめ下さい」
着陸を知らせるアナウンス、に呆然とする。
そんなこと、あるはずもなかった。
「祟、なにぼおっとしてんだ? ほら、早くベルトしろよ」
「都姉……」
「なんだよ。寝ぼけてるのか?」
「祟くん」
茶化す都姉に重なる柔らかな声。
「もうすぐお父さんとお母さんに会えるね」
「お姉ちゃん……」
「ゆき、話は後にしてください。危険です」
相変わらずの無愛想でお姉ちゃんを注意する瞬兄。
けれど、その瞳には隠しようのない喜びが宿っていて。
未来が……変わった?
その事実に、僕は呆然と外を見つめた。
* *
「祟くん、ここにいたんだ」
庭に立つ僕を見て、ほっと微笑むお姉ちゃん。
「いないから探しちゃった」
「……どうしてお姉ちゃんはそうなんだ」
「え?」
「知ってるんだろ? 僕が恨んでたこと……っ!」
僕の言葉に、そっと微笑むお姉ちゃん。
それは慈愛に満ちた菩薩のようで。
ずっと堪えていた涙が頬を伝う。
「この世界を救うためにお姉ちゃんは僕を消すんだって……そうわかってからずっと恨んでた。
何も知らずに僕に笑いかけるお姉ちゃんが大嫌いだった」
瞬兄は星の一族の使命だからって、自分が消えゆく運命さえ受け入れていたけれど。
「僕はそんなの嫌だ。星の一族だからってどうして僕が死ななければならないの?」
神子のために仕え、死さえも受け入れるのが使命だなんて、そんなの納得できるわけなかった。
「僕は死ぬのが怖かった。だったら変えればいいって。お姉ちゃんが世界を救うなら、それを邪魔すればいい。そうすれば僕は死ななくてすむ……そう思ったんだ」
「祟くん……」
「……未来を変えたのはお姉ちゃんなんでしょ」
「祟くんと瞬兄に生きて……傍にいて欲しかったから」
そう微笑む姿は以前と何も変わらなくて。
「どうしてそんなふうに微笑むの? 僕はお姉ちゃんをいっぱい傷つけてきたのに……なんでお姉ちゃんはそうなんだよっ!」
「だって祟くんは私の大切な弟だもの」
「…………っ」
お姉ちゃんの言葉に嗚咽が漏れる。
涙が溢れて止まらない。
そんな僕をそっと抱きしめる暖かな腕。
突き放したこの腕が失われなかったことが、こんなにも……嬉しい。
「大嫌いなんて嘘だよ……ずっと……昔からずっと、優しいお姉ちゃんが大好きだった……っ」
だからこそ、苦しかった。
辛かった。
悲しかった。
自分が生き残る未来に、彼女の存在はなかったから。
「祟くんを一人苦しませてごめんね……」
労わるようにそっと背を撫でる手に、涙腺が決壊したように涙が止まらない。
神様なんて大嫌いだった。
それでも。
「ありがとう、お姉ちゃん」
お姉ちゃんに出会えたこと。
失われるはずの存在が今もあること。この奇跡を与えてくれた彼女に―――ありがとう。