そしてまた、あなたと

忍千12

はらり、はらりと桜が舞う。
薄墨桜は毎年鮮やかに咲き、千尋の心を癒してくれた。

「……忍人さんが誇れるような私でいられたでしょうか?」
王となっても強くいてほしい――それが忍人の願い。

千尋のために生きていきたいと、そう願ってくれていた忍人の思いを胸に、今まで中つ国のためにと力の限り尽くしてきた。
目をつむれば、瞼の裏には今も鮮やかに浮かぶ忍人の凛とした姿。
すぐにでも会いたいと、そう思う気持ちを封じ込めて、彼の望む強い王であり続けた。
――今日、この日まで。

す……っと身が軽くなり、光に包まれ。
目を開けた先に映った景色は、見慣れた場所ではなく花にあふれたところ。
役目を終えたのだと、そう頭が理解した瞬間、ざっと緩やかな風が吹いて。
目の前に立つ姿に視界が揺らぐ。
誰よりも会いたかった、誰よりも愛しいひと。

「……忍人さん……っ」
胸に飛び込むと抱き寄せる腕。
ずっと求めていたひとが、目の前にある。

「私は……忍人さんの誇れる私でしたか?」
「ああ……ありがとう、千尋」
鼓膜を揺らす低音の響きが嬉しくて、幸せで。はらはらと、涙が頬を伝っていく。

「お待たせしてしまってすみませんでした」
「いや……俺はずっと君の傍にいた」
「え?」
「ずっと、君と一緒に生きてきた」
柔らかな笑みに、新たな涙があふれ出し、忍人の胸元を濡らしていく。

「……泣かないでくれ」
「今日だけ……許してください……」

忍人の手紙を受け取ったあの日から、決して千尋は涙を流すことはしなかった。
強い王であり続ける……それが忍人との約束だったから。

「ありがとう、千尋。君からの贈り物は確かに受け取った」
「……え?」

忍人の言葉に胸から身を起こすと、その手にあるものを見て再び涙があふれ出す。
それは、毎年千尋が作っていた桜の押し花。

「……あの時、俺は君の優しさを受け取れずに君を傷つけた。だから今度は素直に受け取らせてもらう。君の俺への想いを」
「ありがとうございます……っ」
時を経て、確かに忍人に届いた想い。

「……告げてもいいだろうか。君にずっと、告げられずにいた想いを」
優しく涙をぬぐう指に顔を上げると、まっすぐに千尋を映す瞳。

「君を……愛している」
確かに想いが重なった瞬間に、千尋は忍人の腕の中で涙をこぼし続けた。
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